紫のたくらみ

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 俺たちがあらかたの作業を終えたのは五十分後だった。もう一人が帰って来るか来ないか、ぎりぎりのところだった。俺は最後に九条に確認したいことがあった。 「ところで、卵子は一体どうやって調達したんだ?いくら俺でも、精子・卵子バンクの偽装工作まではできないぞ」  精子はともかく、摘出・保管に一定の技術を要する卵子をどうしたのか、俺は作業の間中疑問で仕方がなかった。高い知性がそうさせるのか、九条にはまともな感情が備わっているか疑わしいほどの鉄面皮で、これまで浮いた話は一切ない。当然独身で、卵子を提供してくれそうな存在が周囲にいるとは思えない。  一方、精子・卵子バンクは研究所と同じ敷地内にあるのだが、子供を望む夫婦や、精子・卵子提供者から預かった精子・卵子は厳重に管理・保管されているし、セキュリティのためにラボとは別の管理体制が敷かれていて、当然、俺は向こうのセクションについては全くの門外漢だった。 「ああ、そのことだったら心配には及びません。外部のつてで調達したものですから」 「そ、そうか」  俺はつい「良かった」と言いそうになったが、ただ爆弾の一つが自分から少し遠のいただけのことで、また別の疑問と不安を抱えることになってしまった。しかし、俺はもうこれ以上首を突っ込むのはやめにした。  結局その赤ん坊は、九条の遠縁の夫妻の子供として登録することになり、彼は赤ん坊を純白のおくるみに包み、更に目隠しのため研究資材運搬用の大きなキャリーに入れて、いそいそと早退していった。俺は今日やるはずだった作業を取り止め、ラボの端末から役所のサイトにアクセスした痕跡を消す作業にかからなければならなかった。そうだ、こういうスキルに長けているのも、研究所内では多分俺だけだ。九条は最初から俺を狙っていたのだ。
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