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「呪い?」
季節は六月、新しい環境にも慣れ、梅雨の予感を感じながらだらだらとした大学生活を送る日々。その中で降りかかってきた言葉は、あまりにも異質だった。
「多々家くんってそういうの得意だって聞いたから」
多々家とは僕のことだ。目の前にいるのは伊藤花音、英語のクラスで一緒の子だった女の子である。髪は肩より少し長いセミロング、チョコレートブラウン……というのだろうか。目立たず、でも垢ぬけた色は同期の女子たちの間で今はやりの色だ。派手目グループではなかったけれど、周りにはおしゃれな子が多かった気がする。伊藤さんはというとおしゃれ、というより上品な感じだ。スカートはいつもひざ下で、白や青といった清廉な色がよく似合う人、という印象が僕の中ではある。そんな人が僕になぜ、しかも「呪い」といった類の相談をするのか。
「ごめん、急にこんなこと言っても混乱するよね」
僕の怪訝そうな顔を見て察したのか、伊藤さんは僕の目の前で座り直す。大学の中庭に設置されたウッドデッキは、今日も昼食を食べる学生で賑わっていた。
「正直わたしも混乱してて。でももう他に頼れる人がいないから相談するの」
「……僕、そんな頼りがいがある人物だとは思えないけど」
「多々家くんって視えるんでしょ」
一瞬、時が止まる。
「多々家くんって幽霊が視えるんだよね」
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