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 伊藤さんが繰り返す。体温が一気に下がるのがわかった。彼女の口ぶりから、ふざけていっている訳ではないらしい。  そうだ。僕は、視える。  物心ついた時から他の人が見ることの出来ない、人ではないものをみることが出来た。通学路を歩けば黒い靄のような塊が渦巻き、空き家にはには何人もの人の手や頭が張り付いているのを素通りしてきた。この体質で良かったことは一つもない。目をふさぎたくなるようなグロテスクなものを見ることもあるし、人に言えば気味悪がられる。僕にとって「みえる」ことは隠したい事だ。どうして伊藤さんがその事を知っているのか。 「それどこで聞いたの。あんまり周りにはいってほしくないんだけど」 「ごめん、いやだった?」 伊藤さんを謝らせてばかりだ。別に知ってしまったことは仕方ない。問題はどこから漏れたのかということだ。 「あぁ、多々家に会えたんだ」 僕の頭上から声が降ってくる。顔を上げると見知った姿が見えた。 「時澤、もしやお前のせいか」 「そうだよ、もしや俺のせいだ」  時澤はそのままにこり、と音がしそうな笑みを浮かべる。こんにちは、と伊藤さんに会釈して僕の隣に腰を下ろした。僕は頭を抱える。そうだ、漏らすとしたらこいつしかいない。どうして気が付かなかったんだ。 「伊藤さんとは委員会で知り合ってね。悩んでいたようだから多々家を紹 介したんだ。こんなに早く行動に移すとは思っていなかったけど」  時澤の口調は春の日差しのように穏やかで、悪いことをしたとは一つも思っていないようだ。時澤のパーツはすべて白と黒で構成されている。黒い髪に白い肌、黒のジャケットに白のシャツ、そして黒のスキニー。端正な顔立ちをしているので、きっと他の色も着こなすと思うのだが、黒と白が好きなのだろう。思えば昔から他の色をまとった時澤を見たことがない。彼は中学からの幼馴染でなにかと僕にちょっかいを出してくるのだ。もちろん僕が幽霊を見ることができるのも知っている。
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