1人が本棚に入れています
本棚に追加
「出てくるのを待っているんだよ」
伊藤さんは黙った。僕は目を凝らして出てくる生徒たちを見る。塀花高校の制服は紺を基調としたブレザーで、下のスラックスやスカートは白地に紺のチェックが入っている。自由な校風で有名なだけあって、制服にアレンジを加えている子も多い。髪を染めている子もちらちらいるようだ。一人一人は個性的だが集まると、一つの集団にみえてわかりにくい。やっぱり一度時間を置いて連絡してみるべきか、そう後悔していた時僕の目に明るい赤のパーカーが映る。
「あいりちゃん!」
思ったより大きな声が出てしまった。僕の近くに居た生徒が一斉に振り返る。もちろん、彼女も。
「なんだ多々家くんじゃないか」
あいりちゃんはそう言って少し唇を尖らせる。恐らく友達だろう、隣にいた女の子が「あいり、知り合い?」と聞いていた。
「えっと伊藤さん、紹介するよ。彼女がさっき言っていた専門家の『亜土川あいり』ちゃん」
「いきなり酷いじゃないか多々家くん。私は何も聞いてないよ」
あいりちゃん――久々に会った彼女は少し垢ぬけていた。細長い足を履きならしたスニーカーに収め、恐らく校則ぎりぎりに短くされたスカート、学校指定のシャツとブレザーの間に着込んだ赤いパーカーと、機能性なんて一切無視した長いベルトのリュックサック。まさに「JK」という称号に相応しい。彼女は集団をかき分けて僕たちのもとへやってきた。
「久しぶりあいり」
「時澤もいたのか。まぁ君は多々家くんのことが大好きだからどこへでも付いてくるんだろうけどね」
あいりちゃんは時澤の顔を見て眉をひそめる。なぜか時澤のことが苦手なのだ。
「そんな認識だったのか俺は。多々家について行くと面白いことが起こるから一緒にいるだけだよ。それよりあいり、髪を染めたって噂は本当だったんだね。そんな頭で先生に叱られないのかい」
「別に、頭の色で勉強するわけじゃないし」
時澤の指摘通り、あいりちゃんの頭は黒髪ではない。綺麗にブリーチされた髪は太陽の光を受けて、水の瞬きのように輝いている。ベリーショートカットは見慣れたものだったがまさか金にするなんて、電話で聞かれた時もっと真剣に止めるべきだった。別に似合ってない訳ではないが。
「で、今度は何をやらかしたんだい?」
最初のコメントを投稿しよう!