3人が本棚に入れています
本棚に追加
「いやいや、どうなのよ、これ……」
和服を着た颯太が、部屋の真ん中で気恥ずかしそうに顔を俯かせる。そんな彼を、わたしと綾乃は頭のてっぺんから爪先まで眺めた。
「うん、いい! 最高だよ、颯太くん。ね、真宙!」
「ほんとほんと。めっちゃ似合ってる。いやあ、やっぱりイケメンで長身だと似合うねー、蘭次郎のコスプレ」
わたしと綾乃はうんうんと頷く。
蘭次郎とは、とあるスマホゲームの登場人物の名前だ。そして綾乃の押しでもある。彼女が蘭次郎にどれぐらいの愛を向けているのかと言えば、彼の着ている服を自前で手作りするほどだ。
俗に言うオタクである綾乃は、颯太を見た瞬間、インスピレーションが走ったらしい。彼は最高のモデルよ! 隣で急に鼻息を荒くされたときは、さすがのわたしも驚いた。自分の欲望のためならどんな苦労も惜しまない彼女の行動は早かった。ぜひ蘭次郎の格好をしてほしい、とわたしですら引く熱意で聡太にアプローチした。最初は渋っていた彼だったが、最終的には彼女の強引さに根負けする形で、その話を受けたのだった。そして今日、綾乃の家でお披露目会となった。
綾乃の部屋は、アニメやゲームのグッズで溢れかえっている。普通ならもうちょっと趣味を隠すものなんじゃないかなと思う。事情を訊いてみたところ、どうやら家族ぐるみで沼にはまっているのだそうだ。そのため隠す必要がないらしい。ちなみに、家族を沼に引きずり込んだのは綾乃だという。最初の犠牲者は姉だそうだ。
とはいえ、そんな綾乃のおかげでこうして颯太の和服姿を拝めているのだから、彼女には感謝しなければならないだろう。
「あ、そうだ。いいもんがあるから、ちょっと待ってて」
スマホから顔を上げた綾乃が、部屋を出て行こうとする。
「いいもん?」とわたしは訊いた。
「そ。お姉ちゃんの北海道土産。この前、サークルの人と遊びに行ったんだって。自由だよねー、大学生って」
最初のコメントを投稿しよう!