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綾乃がいなくなり、部屋にはわたしと颯太の二人が残された。颯太は居心地悪そうに立っている。ここはなにかフォローしておかなければならないだろう。
「なんだか、無理に付き合わせちゃってごめんね。いまさらだけど」
「いや、まあ……最初はびっくりしたけど、やってみたら案外悪くないかも、って思ったり思わなかったり」
「なにそれ」
わたしは思わず笑ってしまった。弱気になっている颯太を見て、胸がきゅうっとなる。
「なんだよ。にやにやしやがって」
「えー、別にー」
わたしは笑みを深くする。普段の精悍な顔つきを見慣れている分、弱った一面を目にすると新鮮な気持ちになる。この顔を、わたしだけに見せてほしい。そんな傲慢な思いさえ抱いてしまう。
「にしても、すげえ量のグッズだよな」
颯太が綾乃の部屋をぐるりと見回した。
「綾乃は生粋のオタクだからね」
お小遣いのほとんどを、押しへの愛に捧げていると言っても過言ではない。
「真宙は? おまえの部屋もこんな感じなのか」
「全然。比べるのもおこがましいぐらいだよ」
「ふうん」
「なあに? 女子の部屋が気になるの?」
わたしはわざと意地悪な口調で言ってみる。颯太はむうと眉根を寄せた。
「言い方に悪意があるぞ、悪意が」
「え、そうかな」
首を傾げて見せたら、嫌な顔をされた。うわ、めっちゃ傷つくんですけどー、なんて内心で呟いてみる。
颯太がふと真面目な顔になった。真剣な眼差しを向けてくる。
「あのさ、真宙。前から言おう言おうと思っていたことがあるんだけど」
わたしはすっと興奮が波のように引いていくのを感じる。ついにこの時が来てしまった。
「俺、実は」
その言葉の先を、聞きたくはなかった。わたしは颯太の身体に体当たりすると、そのまま彼をベッドの上に押し倒した。
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