3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ま、ひろ?」
颯太の呆然とした声が下から聞こえてくる。わたしはその口を、強引にふさぎにかかった。唇同士が触れ合う。わたしは泣きそうになりながら、聡太にキスをした。
「真宙……!」
颯太の逞しい腕が、わたしの身体を引き離しにかかった。抵抗するものの、男子の力にはかなわない。
「どうしたんだよ、おまえ。急に、こんな」
「わたし、颯太のことが好き」
叫ぶように、わたしは自分の想いを口にした。どんなテストよりも結果がわかりきっていたのに、言わずにはいられなかった。もしかしたら運命が変わるかもしれない、そんな淡い期待を抱いていたから。
「……ごめん」
俺はおまえの気持ちには応えられない。
颯太は顔を伏せ、声を絞り出すように言った。悲痛な面持ちだった。彼にそんな表情をさせてしまった自分に、罪悪感を抱く。
やっぱり、ダメだった。わたしは涙で顔を濡らしたまま、そっと颯太から離れた。
運命は変えられない。このときではもう、行動を起こすには遅かったのだ。
重苦しい沈黙が流れる。視線を合わせることすらままならない。
潮時だ、そう思った。もうここにはいられない。
先ほど颯太がなにを言いかけていたのか、わたしはその先を知っている。
俺、実は、紗奈と付き合うことになったんだ。
その言葉を、わたしは二度も聞きたくなかった。
最初のコメントを投稿しよう!