思い出の写真

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 わたしには特別な力がある。 「わあ、きれい。さすが真宙だね」  紗奈が、部室の壁に貼られたわたしの写真を見て声を上げる。きらきらとした瞳をこちらに向けてきた。 「カメラを使い始めてまだ一年も経ってないんでしょ? それでこんだけいい写真が撮れるなんて、真宙はセンスの塊だね!」  うららかな春の日差しのような暖かい笑顔を浮かべる紗奈。褒められて悪い気はしない。自然と頬が緩むのがわかる。 「そう? そう言ってもらえると嬉しいな」  わたしは手元のミラーレスカメラを一瞥した。買ったばかりのころは、重いうえに嵩張って邪魔くさいとさえ思っていたカメラだったが、いまではすっかり手放せなくなっている。どこか遊びに出かけるときも、たいていは一緒だ。  わたしは、紗奈と同じ写真部に入っていた。中学まではバレー部に所属していたが、そのあまりの練習量の多さに辟易し、高校に入ってからはもっと楽な部活に入ろうと決めていた。そこで選んだのが、写真部だった。  別に最初からカメラが好きだったわけじゃない。スマホでインスタ映えするような写真ぐらいは撮るけど、それだけだ。この部活を選んだのはもっと不純な理由だった。  部室の壁には、部員たちが撮影した写真が並んでいる。自分がベストショットだと思う作品をプリントアウトし、みんなで眺めながら講評をし合うのだ。 「お、もう貼り出されてるのか」  爽やかな声が背後からかかる。  心臓がどくんとひときわ大きく跳ね上がった。わたしはゆっくりと振り返る。颯太の長身が目に入った。 「お疲れー、颯太。今日は遅かったね」 「おう。ちょっと担任に捕まっちまってな」  颯太はこめかみを掻きながら、端正な顔をわずかに歪めた。あ、と紗奈が隣で声を上げた。 「もしかして、テストの点が悪すぎたとか? それでこのままだと留年かもだって?」 「ばっか、そんなんじゃねえって。文理選択の紙をまだ提出してなかったから、それを早く出せって言われたんだよ。っていうか、俺よりおまえのほうが成績悪いだろ!」 「えー、そうだっけ?」 「自分の点数をおぼえてないことがなによりの証拠だよ」  紗奈と颯太が笑い合う。そんな彼らを、わたしは一歩引いたところから眺める。いつものやり取りだ。小学校からの付き合いだという二人の間には、独特の空気がある。こんなとき、わたしは自分が部外者であることを強く実感する。
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