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花屋へ
私はその日朝早くに家を出発し、上限坂を登ったところにあった、そのフラワーショップへ入っていった。
そこには少し奇妙な形の花が置かれており、私はそっと近づいてそれを眺めてみた。
手の平で、優しく包み込んであげたくなるような、可愛らしい花だった。そうして手を伸ばすと、「あら」とそこで女性の声がした。
振り向くと、入り口にエプロンをつけた若い女性が立っており、私は思わず微笑んで頭を下げた。すると、「いつも、本当にありがとうございます」と彼女は綺麗なお辞儀をしてきた。
「まだ開店前ですよ。どうしたんですか?」
彼女はそう言って私の隣に立ち、一緒にその小さな花を見つめた。
「ここに来ると、心がすっきり晴れやかになりますから。どうしても足を運びたくなって」
私がそうつぶやくと、彼女は頬を綻ばせた。
「それは嬉しいですね。この頃合いに準備を始めるんですが、今日は朝陽が特に気持ちよくて」
私は微笑み返し、「この花、素敵ですね」とその植木鉢を指差した。
「きっとこの花があなたを呼び寄せてくれたんですね」
彼女は本当に小さな声でそう言った。私はその横顔を見遣って、「今朝はこれで失礼します」と軽く会釈して歩き出した。
女性は一瞬物言いたげな様子を見せたが、「また、いつでも」と手を振って送り出してくれた。私はそのまま商店街の道へと入っていく。
そんな中、彼女の視線がずっとこちらに向けられていることに気付いていた。だが、私は心中でぽつりとつぶやき、その場を去るだけだった。
――私はあなたの心に呼び寄せられたんですよ。
今すぐその想いを伝えたい気持ちに駆られたが、今はただ風の柔らかさに口元を緩ませるだけに留めておいた。
そして、明日も必ず会いに行きます、と心に誓ったのだった。
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