2017年 〔冬の陣/師走鍋〕

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551次元:二つ名と一人鍋  記すまでもないことだが「ゴルゴ13」は綽名である。業界における通り名であって、本人が名乗り出したわけではない。一般人として行動する場合は「デューク・東郷」を使用している。最強の殺し屋、超人ゴルゴと云えど「名無し」では活動できないのだ。人間社会において、名前というものがいかに重要であるかがわかる。  療養中のゴルゴを狙った女刺客「キャサワリー」も、宿泊手続きの際、宿帳に「ヒルデガート・アイヒマン」を書き込んでいる。綽名のキャサワリーとは、ヒクイドリ(火食い鳥)のことである。大変恐ろしい鳥類で、ヒクイドリの蹴りは「人を殺す」威力があるという。鋭利な三本爪は、生来の凶器。  当人がどう感じているのかはわからないが、異名や綽名は「一流の証し」である。我らがアンチヒーロー、木枯し紋次郎の「木枯し」も綽名の一種と云っていい。当初は「木枯しの紋次郎」と呼ばれていたのだろうが、いつの間にか「の」が消えて、木枯し紋次郎に落ち着いたのだと考えられる。  紋次郎の先輩格、座頭市もそうである。座頭の市の「の」が消えて、座頭市になったのだ。理由は簡単。そちらの方が呼び易いからである。のの字の消滅(省略)は、通称として、より洗練されたということである。  晩酌後、飯を食べた。テーブルの上を片づけてから、洗面所に行き、歯を磨いた。磨いてから、水道水で薄めた嗽液で口中をすすいだ。  鏡に坊主刈りのおっさんが映っていた。どこの醜男かと思ったら、俺の顔だった。何度見ても嫌な顔である。どうしても好きになれない。まあ、自分の顔が好きな人は、そんなに多くはないだろうが……。   居室に戻り、円盤(DVD)再生機の電源を入れた。自動的に『深夜食堂』の再生が始まる。第37話「白菜と豚バラの一人鍋」を観た。これもいい。ゲストの宮下順子がキャリアを生かした好芝居を展開し、ベテランの存在感を示した。秀逸な配役も『深夜』の魅力のひとつと云える。  適時に登場する豚鍋も実に美味しそう。夕飯を済ませたばかりだと云うのに、食欲を刺激された。が、歯を磨いてしまったので、今夜は何も食えぬ。罪な番組である。触発され、同じ料理を作ってしまう視聴者もいるだろう。  翌朝。洗顔後、湯を沸かし、即席コーヒーを淹れた。敷島製パンの「満彩あんぱん」なるものを齧りながら、熱いやつを飲んだ。〔12月24日〕
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