2017年 〔冬の陣/師走鍋〕

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543次元:高尾山〔四〕  勘定を済ませ、レストランを出た。階段を下り、同ビル1階の古書店に足を進めた。面白そうな本が何冊も棚に並んでいた。その内の4冊を買った。  ビルを出て、高尾駅に向かった。販売機に千円札を食べさせ、切符を購入した。歩廊に行き、停車中の列車に乗り込んだ。車内はガラガラに空いていた。座席に腰をおろし、持参した案内書(兼指南書)を開いた。掲載地図を眺めながら、今日歩いた道程を頭の中で再現した。  今回最大の収穫は、高尾駅から同山の登り口まで、徒歩で行けることがわかったことかも知れない。今度からは、この道を選べばいい。もし「次回」が許されるのならば、俺は以下のように行動したい。  まず、高尾駅から、登り口方面に歩く。登山の前に、トリックアート美術館を見学し、山頂で富士山の写真を撮る。その後、東海自然歩道を通って、相模湖へ下る。湖岸散策後、相模湖駅から高尾駅へ移動し、帰路につく。時間と体力に余裕があるのなら、徒歩で高尾駅を目指しても良い。  俺の場合、走りは嫌いだが、歩きはさほど苦痛ではない。道順さえ把握していれば、不安はない。自分の足で歩いてみると、日本も結構広い国であることに気づく。交通機関の発達はまことにありがたいが、旅行から「過程の楽しさ」を奪ってしまったような感じがしないでもない。  新宿下車。改札を抜け、階段を登って、地上に出た。世界は夜に包まれていた。山中ほどではないにしろ、かなり寒い。  歩数計の付属時計が「午後5時半」を示していた。酒宴の開幕まで、1時間が残されている。迷わなければ、充分間に合う筈だ。自然と都市の印象落差を味わいながら、混み合う歩道を歩き続けた。  帰宅は11時になった。風呂場に行き、熱めのシャワーを浴びた。浴びてから、体を拭き、服を着た。会場ではたらふく呑み、たらふく食べた。酒も料理も美味しかった。これ以上は何も入らぬ。  歯磨きを終わらせてから、布団に潜り込んだ。最後の電気を切る前に、歩数計を見た。画面に「42033歩」が刻まれていた。  その夜、奇妙な夢を見た憶えがあるのだが、どんな内容だったのか、皆目思い出せぬ。夢の記憶ほど曖昧なものはない。又、脳内から消え去る速度も早い。枕辺に記録用の帳面を準備しておくといいらしい。が、俺はそういうことができる几帳面な性格ではない。翌日は晴天になった。〔12月8日〕
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