2017年 〔冬の陣/師走鍋〕

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550次元:殺し屋と探り屋  帰路の途中、コンビニに寄った。弁当と氷をレジに運び、代金を払った。店を出て、車道に沿って伸びる細い道を歩いた。しばらく進むと、左手に鮨屋が現われる。営業しているのかいないのか、よくわからない店である。  ガラス戸越しに店内の一部が見える。カウンターに客の姿はない。もしかすると、奥に座敷があって、そこで宴会をやっているのかも知れない。  鮨屋の前を過ぎ、横断歩道を渡って、少し歩いたところに、我が根城たる「中級アパート」が建っている。郵便受けの中身を確かめてから、剥き出しの階段を登った。屋根付きの通路を進み、鍵を開け、自室に入った。  屋根裏部屋に行き、腕立て伏せをやった。風呂場に行き、熱めのシャワーを浴びた。体を拭き、服を着た。居室に焼酎と氷と炭酸水を持ち込み、酎ハイを作った。卓上の時計が「夜の8時」を示していた。  酎ハイを呑(や)りながら『ゴルゴ13/クリスマス・24アワーズ』を再読した。1980年12月に発表されたもの。  ゴルゴ13と女探偵ドール、ビッグキャラクターの共演が楽しめる東映まんがまつり的な(?)作品である。さいとう先生が(読者宛に)贈ってくれた素敵なプレゼントというわけ。旺盛なサービス精神が嬉しい。  ドールはサンライズ・ホテルの専属探偵である。なかなかのやり手で、職業意識も高い。ゴルゴとドールを繋ぐ役として、チャーリィが登場する。彼は「はやぶさ」の異名を持つスリだが、今回ばかりは相手が悪かった。財布を掠め取ろうとした瞬間、痛撃を被っている。正体不明の怪物の出現に、探偵の血が騒ぐ。宿帳には「職業・作家」と記されているが、そんなのはウソに決まっている。あの東洋人はいったい何者なのか?  ドールはゴルゴの真の仕事を知らない。探偵の直感で「堅気じゃない」ことは見抜いているが、具体的な内容まではわからない。核心に迫るべく、探偵は問題の客の部屋を訪ねる。まさか、主人公同士が撃ち合いを始めるようなことはあるまい…と、想像はつくけれど、それでもやっぱりワクワクしてしまう。  さすがはさいとう先生、活劇の定跡を完全に心得ておられる。近頃は心得てもいない巨匠気取りがいるから困るよな。作者も読者も編集者も、三者全てが、なんにもわかっていないのだから、どうにもならない。ここに最高の教科書がある。少し研究した方がいい。〔12月23日〕
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