2017年 〔冬の陣/師走鍋〕

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552次元:戌年スタンプ  玄関を過ぎ、外に出た。世界は真っ暗になっていた。路面を覆う落ち葉を蹴散らしながら、坂道を下った。そんなに激しい運動をしているわけでもないのだが、その日は酷く疲れていた。  一刻も早く家に帰りたかった。しかし、帰れなかった。来年の干支(のスタンプ)をまだ買っていないことを思い出したからである。予定を変え、俺は池袋へ向かった。  大手の文具店に入り、目的の売場に足を進めた。特設の棚に犬(戌)のスタンプが沢山並んでいた。20種類以上はあるだろう。どの商品も、なかなかよくできている。欲しいと云えば、全部欲しい。が、そういうわけにもゆかぬ。自分なりに吟味し、その中のひとつを勘定場へ運んだ。  帰宅後、温水を浴びた。体を拭き、服を着た。不思議なもので、鉛めいた疲労感は消えていた。布団に潜り込む前に、一杯呑(や)ることにした。居室にレジェンドとミネラル水とグラスを持ち込んだ。先に水を入れ、次に酒を注ぐ。透明の水が焼酎の色(琥珀)に染まる瞬間が好きである。  デパートで買ってきた「調理済おでん」の封を切り、皿に移した。袋の表面に「この商品は冷たいままでも美味しく食べられます」という意味のことが刷り込まれていた。これは本当だろうか。本当だと信じて食べ始めた。  洗面所に行き、歯を磨いた。居室に戻り、円盤(DVD)再生機の中に『深夜食堂 第四部』の3枚目を滑り込ませた。第38話「長芋のソテー」を観る。  風間トオルが**界の帝王、エレクト大木を演じている。奇抜なキャラクターだが、風間さんが演(や)ると、なんとなく上品さが漂う。年齢相応に貫録がつき、芝居も巧みになった。経験と努力を積み重ねた結果だ。怠惰な時間を過ごしている者に、役は来ない。運にも恵まれない。   起床後、洗面所に行き、顔を洗った。台所に行き、湯沸かし器にミネラル水を注いだ。沸き立ての湯で即席コーヒーを淹れた。シュークリームを食べながら、熱いやつを飲んだ。  2杯目を飲みながら、矢野徹の『ウィザードリィ日記』(角川文庫)を再読した。矢野先生の傑作随筆だ。同書に収録されている「ウィザードリィに、いざ出陣」と「大魔術師を倒すまで」のようなゲームエッセイを書くのが俺の野望である。まあ、無理だけどね。模倣さえ難しいのだから。残りの人生を全て注ぎ込んでも、先生の域には到底及ぶまい。〔12月26日〕
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