2018年 〔春の陣/睦月鍋〕

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566次元:相殺作戦  食後、テーブルの上を一旦片づけた。片づけてから、改めて呑み始めた。最近、飲酒量が増えている。もっとも「俺にしては」という但し書きが付くが。酒が好きであることと酒が強いことは、必ずしも一致しない。  若い時分、そのあたりを誤解して、数々の醜態を演じたものである。連日連夜、各地で毒言の類いを撒き散らし、作らなくてもいい敵を作り続けた。愚劣の極みと云う他はない。ある段階で気づいたから良かったが、もし気がつかなかったら、今頃は大地の肥やしになっていたかも知れない。  焼酎のミネラル水割りを呑みながら『ゴルゴ13/サンタ・アナ』を再読した。1987年に発表されたもの。女刺客「血まみれブリギッダ」が登場する。ヨーロッパで一番忙しいと云われている美貌の殺し屋さんだ。銃器の扱いに長けているのは、まあ、当然として、時には、爆弾も使う。標的に合わせて凶器を選んでいる(選べる)ということだ。  このブリギッダを「作戦の軸」にしようというのが、インターポールの目論見である。その作戦とは「殺し屋同士を噛み合わせる…」という酷薄なもの。危険人物と危険人物、どちらが死んでも、世の中が綺麗になるというわけだ。黒澤明の『用心棒』を連想させる内容である。  依頼人が何者なのか、ブリギッダは知らない。ゴルゴに倒される前に、彼女が真相を感知していたら、どのような行動をとっていただろうか?興味が湧く。国際警察の重役連中(の眉間)を片っ端から、狙ったのではないか?それはそれで、ダークアクションとして、立派に成立する。 「ゴルゴ13はかなり確信的なテロリストだと思っている。〔略〕世界のいかなるイデオロギーも受け入れないという点では…逆説的な思想を象徴してはいないだろうか…?」(66巻・266頁)  とは、インタポール長官のゴルゴ評だが、核心に迫った鋭い意見である。最強の中立とでも云えば良いのだろうか、彼は「右」にも「左」にも属さない。自分のルールを守ることに病的なほどに熱心で、その頑なな姿勢が、窮地を招く場合もある。  ゴルゴが何を考えているのかは、本人にしかわからないが、おそらく彼は「ルールを破って生き延びるぐらいなら、準じて死んだ方がマシ」だと思っているのではないか。ゴルゴは高い。報酬額は莫大だ。が、損得抜きで活躍する時もある。まったく面白いキャラクターである。〔1月28日〕
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