2018年 〔春の陣/如月鍋〕

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2018年 〔春の陣/如月鍋〕

567次元:ヒゲの九段  最後のカギをかけてから、自室を離れた。通路を進み、階段を下った。歩道に出て、一番近い駅を目指した。歩数計の付属時計が「朝の5時45分」を示していた。眠気を噛み殺しながら歩く。  猛烈に寒い。路面凍結を前提にして歩行しなければならなかった。今度転倒したら「命がなくなる」かも知れない。後頭部を強打して即死、気がついたら、閻魔王宮の行列に並んでいた…という展開にもなりかねぬ。  上空に満月が浮かんでいた。昨夜「凄いこと」が起きたらしいのだが、見物意欲が湧かず、早々に寝てしまったのだった。  始発電車に乗り込み、座席を確保した。発車と同時に本を読み始めた。東公平の『升田幸三物語』(角川文庫)である。抜群に面白い。勿論期待はしていたが、ここまで面白いとは思わなかった。  升田幸三と云っても、若い人たちには馴染みが薄いかな。棋界の長嶋茂雄、史上最大(級)のスター棋士です。棋力はさておき、人気度の高さに関しては、羽生さんや藤井ちゃんよりも上かも知れない。  升田先生の人生は、そのまま映画になりそうな劇的要素に満ちている。でも、不思議にならないですね。やりたくてもやれないと云うべきか。本気で作ろうとしたら、莫大な制作費がかかるし、加えて、升田役を演じ切れる俳優さんがいるかどうか…。いると信じたいけど、咄嗟に頭に浮かんでこないですね、残念ながら。  業務終了。職場を出て、駅方面へ歩いた。途中、仕事(と人生)の大先輩Nさんと合流した。行きつけのレストランに入り、酒宴を開いた。大先輩はグレープフルーツサワー、俺は清酒を呑んだ。酒肴(さかな)は餃子、中華風冷奴、胡瓜と大蒜の和え物など。  地元駅到着。改札を抜け、階段を下り、外に出た。大粒の雪が宙を舞っていた。今年2回目の降雪である。が、積雪の心配はなさそうであった。帰路の途中、コンビニに寄り、おにぎりと菓子パンを買った。  帰宅後、温水を浴びた。体を拭き、服を着た。居室に行き、炬燵に潜り込んだ。潜りざまに、円盤(DVD)再生機を起動させた。松本清張原作の松竹サスペンス『わるいやつら』を観た。1980年に公開されたもの。  傑作とは呼び難い映画だが、配役が豪華なので、結構楽しめる。スタークラスが顔を揃えているし、端役にも芝居巧者が起用されている。主人公を追い詰める鬼刑事に扮した緒形拳が特にいい。〔2月2日〕
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