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この小説は、一般的なラノベのスタイルに忠実に書かれていると述べました。
例えば主人公の飯島靖貴は成績もまずまずで問題児でもありません。
ただし人づきあいは苦手のようで、クラスカーストの最底辺と紹介されています。
ヒロインの北岡恵麻の窮地を救って、そこから二人の関係が始まるわけですが、ハッキリ言って積極的に
(困っている人間を見過ごすことはできない)
と助けたわけでもない。なりゆきです。
小説を読んでも、「正義感が強い」「親切である」「成績が抜群によい」などというアピールポイントを感じることはできませんでした。
さらに靖貴の性格についていえば、恵麻との関係が気まずくなっても積極的に自分からモーションを起こすわけでもない。
恵麻は友人から靖貴のことを聞かれ、
「あんなヤツ、相手にするわけない」
と答える。
照れ隠しと靖貴に迷惑をかけたくないという思いから口走ってしまう。
そのため、二人の関係はきまずくなるわけだけど、本人だって
「自分はスクールカーストの底辺」
と自覚しているわけですよね。
恵麻がそう言ったから頭にきて避けるようになるというのも、うじうじしていて前向きじゃない態度です。
一方の北岡恵麻というのはギャル系だけど美人で人気があるキャラクターです。
一回親切にしてもらって、少し仲よくなることがあっても、カレ氏として靖貴を意識するようになるというのも飛躍しすぎな感じがします。
ただしこれが一般的なラノベのスタイルなんですよね。
主人公がオタクだろうと自分勝手だろうと優柔不断だろうが、美人のヒロインが向こうから積極的に近づいてくる。
それを前提に成立しています。
今も少年サンデーに新作を連載している漫画家の高橋留美子の代表作に『うる星やつら』という作品があります。
高橋留美子がブレークするきっかけとなった作品です。
異星人の美女、ラムが高校生の諸星あたるの押しかけ女房になるラブコメです。
今日のラノベに大きな影響を与えたと云われています。
当時の批評を調べたら、こんな文章がありました。
<バカで性格の悪い人間がモテモテになるはずもない。うさんくさい漫画である>
今日のラノベにも共通する批評です。
と、いうかラノベの本質を衝いていると思います。
ラノベのもうひとつの重要なスタイル!
ハッピーエンド!
この小説では、最後に二人は強い絆でつながれたカップルになってしまうのですから、この点もラノベのスタイルに忠実です。
ネタバレになるので控えますが、この小説の場合、恵麻が靖貴のことだけ思って、ときには嫉妬もして「靖貴に首ったけ」状態になります。
「よかった!」
感動する人もいれば、
「ご都合主義が過ぎる。バカバカしい」
と眉をひそめる人もいるでしょう。
ラノベというのは、一定のスタイルが決まっていて、はまる人ははまるし、拒否反応を示す人は絶対に認めない。
かなり好き嫌いのハッキリしたジャンルだと思います。
なおラノベによっては、病死などヒロインとの悲しい別れで終わる場合があります。
そうした場合でも、ふたりの強い絆を読者に印象づけて前向きになれるラストが求められています。
ただしですね。
以前に尊敬する方がおっしゃっていましたが、
「『もう一度会いたい・・・話がしたい・・・突然天国へ旅立った七瀬先輩と・・・』(年上の恋人との死別と再起)
こういう作品は、いまの主流ではない」
ということでした。
『君の膵臓がたべたい』
が大ヒットしましたけれど、どじょうは何匹もいないということですね。
それでは、この作品が大ヒットした理由は何かについて考えてみたいと思います。
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