読者の願いに答えてくれなかった残念なシリーズ

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【感想】  一部の作品を除いて、ほとんど学校内のトラブルが解決して結末となります。  「犯人」もたいてい生徒。片思いが原因で思わぬ事件に発展するといった展開が目につきました。  ミステリーとしては、正直、「まあまあ」の感想しか持ちませんでした。  時々、複雑なトリックを出してくるのですが、その割には謎解きの爽快感が感じられなく分かりにくくて小粒な印象が残りました。  短編になると学校内の事件と言うことで、「はあ、そうなんですか」的なトリックも目につきます。  名探偵特有の変わり者という伊神のキャラも、それほど珍しいとも思いません。  この人、読者への「ひっかけ」をよくやります。それを評価する人も一部ではいます。  ネタバレになるのでハッキリ書けないのですが、ある外国のミステリーの問題作に  「語り手が犯人だった」 という作品があります。作者は有名な女流作家です。  要するに嘘は書いてないのだけれど、殺害シーンなど肝心な部分はカットして書き進めています。今から百年近く前の作品ですが、賞賛する人がいる一方、  「アンフェアだ」 と非難も殺到しました。  文芸評論家の小林秀雄は、  「ミステリーが、読者が謎解きに挑戦する知的な小説と解釈するなら、語り手は自分に都合の悪いことを最後まで書いていないのでアンフェアだ」 と江戸川乱歩との対談で述べています。  どうもこの作品にヒントを得たのじゃないかと思うところがあります。  ただし「善意の第三者」と読者に印象付けていた語り手こそ犯人だったというどんでん返しの衝撃はありません。  正直、僕が読者の立場から申し上げると、何の意味があるのかよく分からない「ひっかけ」です。  ネタバレになるため、具体的な「ひっかけ」の内容を紹介できないのが残念ですが、そうですね・・・  「ツルピカ」というあだ名の登場人物がいる。読者の誰もがその人物が髪型にに特徴のある人物と思い込む。  実際にはその人物は養子で、以前の名字は「鶴田」。本人の髪の毛はフサフサだったというような感じかな。(全然違うか?)  ひとつだけ、作品が特定できない「ひっかけ」を簡単に紹介します。  ある短編で、いつも通り葉山君が語り手を務めていると思ったら、最後の最後に無関係な少年だったと分かるオチです。  ちょっとというか、相当笑えることは笑えるんですけどね。  要するにこの「ひっかけ」を行う理由が全く理解できないばかりか、トリックの重要な根幹をなす訳でもありません。  僕は、この「ひっかけ」について、ミステリーとしては評価していないし、好きになれなかった。  ではこの小説の魅力は何かというと、葉山君と柳瀬さん、あるいは葉山君と伊神さんのユーモアに満ちたやりとりだと思います。  葉山君が真面目に語り手を務めながらも、読んでいてクスクス笑いが沸いてくる楽しさ。  葉山君が柳瀬さんに振り回されながらも何となくいい雰囲気になってくる。  そこらへんのラブコメシーンが読者に受けたものでしょう。  二次創作も葉山君と柳瀬さんのカップルを登場させた作品が多いことでも、読者が二人の関係の進展に期待していたことは明らかと思います。  
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