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寄り道をして珈琲を飲んだ会社近くの公園には、残念ながら手袋は落ちていなかった。落としたとしたらベンチの上か下か、近くの茂みであるとばかり思っていたのに。
しかし、近所の交番に駆け込んで調べて貰ったところ、有難いことに手袋の届けが出ていたことを知るのである。いくら人気のキャラクターとはいえ、使い古しの手袋、それも片方だけだ。望みは薄いと思っていたが、親切な人が交番に届けてくれていたらしい。本当に、感謝しかない。
『良かったねえ、見つかって』
その時の私は、傍目から見てもよほどほっとした顔をしていたらしい。痩せた年配のお巡りさんが、にこにこと笑いながら言ってくれた言葉がとても耳に残った。
『日本人は冷たいだとか言う人もいるけど、落とし物を届けてくれる人ってのはちゃんといるもんだ。よく感謝しなよ。誰かがちょっと手間をかけてくれたから、その手袋は戻ってきたんだからねえ』
実際、その通りだった。自分の経験から、もし今後誰かの落し物を見つけたら必ず交番に届けることにしよう、と決めた私。しかし実際実行してみると、思ったよりも交番の“遺失物届け”は手間がかかる場合があるということに気づいたのである。正確には、対応する交番とお巡りさんの手際によって変わる、とでも言えばいいだろうか。
後で知ったことだが、私が手袋を引き取った交番には、手際の良いお巡りさんと手際の悪いお巡りさんが両方存在していたのである。後日そこに、偶然拾った誰かのキーホルダーを届けた時のこと。別のやや恰幅の良い男性のお巡りさんに対応してもらったのだが――なんと、想像以上に時間を拘束されてしまったのである。
落し物を届けると、いくつかの項目を訊かれることになる。その項目のいくつかは、落し物を拾った人間にとってメリットになるものだと言っていい。
私の住所と名前、拾った場所と時間をまず聞かれ。次には“探すためにかかった費用を請求するか”、“お礼を要求するか?”“持ち主が現れなかったら引き取るか?”“個人情報を持ち主に教えてもいいか?”などを尋ねられることになるのだ。
その書類は、拾い主である話を聞いてお巡りさんが書くのが常であるらしいのだが。まあ、そのお巡りさんの手際が悪いこと悪いこと。書くスピードも遅ければ、項目に関する説明も明らかにわかりにくいときた。落し物を届けただけで三十分足止めをされる、なんてどうして予想できただろう。会社帰りで、時間の余裕があるタイミングだったからまだいいものの――人によっては途中で嫌になって帰ってしまったり、次からは落し物を届けるのをやめよう、なんて思ってしまう原因にもなりかねないのではないか。
実際、初めて落し物を届けた最初でその状況に陥った私の心が、少しばかり折れかけたのは言うまでもない。人に親切にされた分誰かに親切にしたい、とはいっても――恩返しできるのが高確率で私の手袋を拾ってくれた当人ではないから余計に、である。
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