繋がるセカイ

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――いやいや、でも誰か本当に困ってる人いるかもしれないし。交番に届ければ困ってる誰かを助けられる可能性は高いかもしれないし。こういうことは、簡単にめげるべきじゃないだろ私!  そして、何度か落し物を届けるということをして気がついたことがいくつかある。  一つは、落し物というものはその気になって探せばあっちにもこっちにも落ちているということだ。手袋の片方を落とす、というのは珍しいことでもなんでもないのかもしれない。実際、その後の半年間で二回落ちているのを見かけてしまった。それ以上にびっくりした落し物は、やはり携帯電話や財布といった貴重品であるのだが。人間、疲れていたりぼーっとしていたりすると、うっかり大事なものを落としてしまうイキモノであるらしい。  二つ。他の交番にも立ち寄って同じ手続きを繰り返したところ、やはり手際の良さは交番とお巡りさんによってまちまちだったということだ。特に、最初の時に聞かれた六項目は必ずしも全て訊かれるとは限らない。住所は聞かれなかったケースもあるし、探すのにかかった費用うんたら、が聞かれなかったこともあった。というか、“お礼とかいいんで!”というと後半の質問は全てショートカットできてしまうことが多い。多分、私のように落し物が欲しくて届けたわけではない、という人間が少なからずいるためだろう。  そして、三つ。――私の最寄り駅は少し大きな駅なので、駅から直通で繋がる地下通路があり、いくつかテナントでお店が入っていて賑やかであったりするのだが。その小さな休憩スペースには座れる横長のベンチがいくつかあって、そのうち黄色い色で塗られたベンチに――一週間に一度か二度、同じ落し物が落ちているということである。  それは、私が落としたのとは別の手袋だった。もっと薄手で、春先の少し暖かくなってきた時期でも使えそうな黒い手袋である。やや指先が細めでお洒落なファーがついている、女性ものであると思われた。その手袋の片方が、ちょこんとベンチの上に鎮座しているのである。  私はそれを見つけるたび、毎回律儀に近隣の交番に届けていたのだが(地下通路から階段で地上に上がったところに、丁度交番があるのだ)。あまりに頻度が高いので、段々と疑問が募るようになっていったのである。  何故、いつも夕方か夜の帰宅時に通ると、ベンチにぽつんと手袋が落ちているのか。わすれっぽい人が落とし主であるのか、あるいは意図的なのか。  一体誰が、どういう理由で手袋を片方だけ落としていくのだろう。その交番は手際が良いので、特に手間もなく落し物は届けられるので問題ないが――徐々に私は落とし主のことが近なって仕方なくなりつつあったのである。  ゆえに、つい昨日――同じ手袋を届けた時に、お巡りさんに告げたのである。 『お礼とかはなんにもいらないんですけど……落とし主さんに、私の電話番号、伝えてもらうことはできますか?』  教えたところで、連絡が来るとは限らない。  それでもつい何かを期待して、そんなことを言った。わざわざお巡りさんに聞かれることもない電話番号を伝えて。  そして、その翌日の今日。土曜日ということで家でまったりと過ごしていた午前十一時過ぎ、その電話はかかってきたのだ。顔も見たことのない相手。全く得体のしれない相手。本当ならもう少し警戒するべきだったのかもしれないが――私は、誘われるまま家を出たのである。
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