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人には優しく。
嫌な事をしない。
相手を思いやる。
そんな事を子供の頃から大人に教えて貰ったな、と三嶋はぼんやり思いながら、数人の列をなした珈琲ショップのレジに並んでいた。
たまの休日、珈琲をテイクアウトし、河原でゆっくり飲むのが日課だった。
そんな有意義な休日に、道徳のような思いをはせたのは、列の近くに座っている一組のカップルの会話のせいだ。
珈琲ショップでは、わりと高めのラインナップなこの店。
安くても400円が最低オーダー。
それを愚痴愚痴と高い高いとひたすら彼女に喋る男がいた。
「この1杯で生ビール飲めるぜ?わかる?俺、すげー損した気分。」
「お前さ、俺より高いの飲んで図々しいと思わね?普通安いの頼むだろ、女なら。」
そんな事を言われつつも、嫌な顔はせず、話を聞いてあげている彼女は周りからすれば天使にも見えただろう。
「最低ー。あれ、彼女さんがお金だしてたよね?」
近くの女性からこそこそと陰口が聞こえ、事実に思わず三嶋は目を細めた。
いつもの珈琲を注文し、大きめのクッキーを2枚追加する。
余計なお世話で恥をかいたら、他の店で珈琲を買おう。
そんな決意をひっそりとし、ため息がもれた。
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