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新幹線で片道2時間
スーツ姿の恵は、始発の新幹線に乗りぼんやりと外を眺めた。
過ぎていく景色がどんどん見覚えのあるものになっていく。
目的の駅につけば、また新しい店が増えた事に気がついた。
街も昔と同じままにはいない。
1時間に2本ほどのバスを駆使して向かったのは、墓地だった。
蝶野 美砂
4年前まで付き合っていた元恋人。
2月5日は彼女の命日だった。
「久しぶり、美砂。」
借りてきた桶と杓で墓石を濡らし、ふきあげ、手を合わせる。
「恋人が出来た、、私。もうすぐ1年になる。美砂には聞きたくない報告だったかな。」
「時々だけど、美砂の事思い出す日が増えてるよ。あの部屋で暮らしてたんだね、私達。」
周りからそう言われても、実感がわかなかった事実。
しかし、少しずつ思い出す記憶には確かに美砂はいた。
「ねぇ美砂、怒ってない?美砂の事忘れてしまった私に。新しい恋人作った私に、、。」
いくら疑問を投げ掛けても帰ってくるはずのない問い。
それでも口に出していた。
「今年も来たんですね。」
突然背後からかけられた、低く悲しい声。
酷く頭が痛くなった。
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