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「海斗さん、、。」
銀のフレームの眼鏡から、見つめられる目に軽い目眩を覚えた。
美砂の兄、海斗に会うのは久しぶりだった。
少しふらつく足取りでその場を横にずらすと、そっと手を合わせ長い黙祷が送られる。
「恋人が出来たんですね。」
「、、、、はい。」
「では今年で最後にしなさい、ここに来るのは。」
「!」
弾かれたように顔をあげれば、懐かしい視線が真っ直ぐと向けられていた。
似ているような気がした、二人の目は、
「美砂の事は、俺達家族が覚えておく。もう、貴方は前だけを見て生きなさい。」
この人はこんな台詞をいう人だっただろうか。真面目な顔しかしない、笑わない男性。冗談が通じない。
記憶にあるだけの美砂の兄のイメージはこれだけだった。
つまり、本気なのだ。
「もし、美砂の事を思い出したかったらうちに来るといい。荷物はそのままにしている。」
「美砂は、、、悲しみませんか、、。」
「悲しむだろうな。」
歯に衣きせぬはっきりとした返事が胸に鋭利な刃物のように突き刺さる。
「が、、いつまでも悩む姿を望むような妹じゃない。幸せな姿をみたら、喜ぶさ。美砂はそういうやつだ。」
一瞬見せた笑顔が幻のように、瞬きをすれば元の顔に戻っていた。
頭を下げ、その場を遠ざかる足取りが重い。
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