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人生初ビールは、何が美味しいのか分からない味わいだった。
口の中はほんのり苦いのに、喉と顔は一瞬で熱くなって、炭酸のせいか涙目になってしまった。
「ぶっ! 忘れてたな、太郎は炭酸が苦手だったなっ! 顔が赤くなって涙目って、可愛いな、息子相手に可愛いとかなっ! いや、でもさすがカカの息子だ、可愛い、可愛い」
頭の中をご機嫌な声で可愛い可愛いと父親の声がグルグルしている。
「大丈夫?」
「大丈夫?」
母親と妹が同じような顔で同じように顔をこちらに向けて若干心配そうに聞いてくる。
「うん、大丈夫。なんか顔が熱いしフワフワする」
俺の言葉を聞いてか聞かずか、まだ持っていたグラスを父親に取り上げられた。
「はい、太郎はアルコール禁止! 外で飲むなよ。面白いことやっちゃったりするかもしれないし、それも楽しそうだけど、取り敢えず禁止だな!」
フワフワする頭で父親の言葉を聞いて、疑問に思う。
「面白いことってどんなこと?」
「えっ? それ、聞いちゃう? 知りたい? それじゃグエッ! おい、なんで俺の長い脚をけるんだよっ!」
「えっ? なんのこと? そうそう、そういえば、この前、トトが会社の女の子を泣かした話でも聞く?」
父親と母親が戯れだしたと思ったら、話題が見事に変わったようだし、妹が母親の言葉に食いついている。
会社の女の子を泣かした話って、確かに気になる。
「ちょっ、やめろって。泣かしたっつーか、確かに泣いてたけど、そういうんじゃないだろ! 恥ずかしいからヤメロ」
なんだか微妙に恥ずかしそうな顔をする珍しい父親と、ニコニコしながら話をしだす母親。
とりあえず、俺も母親の話に耳を傾けた。
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