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桜と空、高層ビルの隙間から見える空、電線が入り組んでいくつにもしきられた空、空、空、とにかく色々と撮りまくった。
あの横暴なカラスが指定した時間まで、貴重な春休みの一日を使って、空の写真を撮りまくった。
こんなにずっと空ばかり見てたのは初めてだ。
今まで気にも留めなかった雲の形に見入り、スマホのレンズを向けた。
「なぁ、お前も大きくなったら空を飛ぶんだよな。気持ちよさそうだな」
「ギュル」
雛ガラスが大きな目を瞬かせる。
「オイ。空の写真は撮ってきたか? お前が一番いいと思うのを見せろ」
僕はスマホの画面をカラスに向けた。
何時間も空を見上げて、何度もシャッターボタンを押してきたが、僕が選んだのは今朝一番に撮った写真だった。
「つまらんな」
カラスは一言そういうと大きく羽を広げはばたかせた。
「約束どおりお前の大事なものをもらおう」
この結果は予想していたが、僕は奥歯を噛みしめた。
悔しい。
何ヶ月分かの小遣いとお年玉で買ったヘッドフォンが消えた。
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