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「花、好きなの?」
急に後ろから声をかけられて、振り向くとスケッチブックを持った女の子が立っていた。僕と同じ歳くらいかな。ふわふわと柔らかそうなショートボブの髪が風にゆれている。
「好きっていうか、課題みたいなもんで……」
横暴なカラスに出されたんだけどね。
「課題? 春休みなのに」
「君は?」
彼女が手にしたスケッチブックに視線を向ける。
「あぁ、コレ? あたし美術部なんだ。花がキレイなうちにスケッチしとこうと思って」
「へー」
「ねぇ、課題って花を調べるとか?」
「ううん違う。自分の一番良いと思った写真を撮ってこいって言われた」
「ふーん。でも、その撮り方だと図鑑の写真みたいになっちゃうよ」
「どういうこと?」
「ちょっと見せて……。やっぱり。ほら、見て花の観察日記や図鑑の写真なら、この写真みたいなのがいいと思うけど、作品としての写真なら、こうして構図とか考えて撮らないと……ほら、どう?」
僕のスマホを操作しながら、彼女がシャターボタンを押した。それは僕が撮った写真とは違う世界が写っていた。背景の青空の前に、少し首を傾げたチューリップ。花びらの赤と背景の青の対比が印象的だ。
「スゴイ……。なんか花が引き立って見える」
「絵を描くときと一緒で、背景とのバランスとか配置とか、気をつけるといいと思うよ」
「ありがとう。やってみるよ」
「ところで、そのぉ……私もここのスケッチをしたいから、少しの間そこをあけてくれると……」
「あ、ごめん」
「ギュルルルルー!」
僕はとっさにバッグ引き寄せた。彼女の視線がバッグに止まった。
「え? なに? そこに何かいるの?」
「雛鳥がいるんだ」
そっとバッグの口を開けて彼女に見せる。
「やー! かわいいー!」
彼女の名はエリ。また雛を見せて欲しいからと連絡先を交換した。
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