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「続き……シてもいいのか?」
「え。あ……うーん。そうだねぇ……どうしようかねぇ」
こういう時、どう答えるのが正解なの?
恋愛偏差値が低すぎてわからん。
気持ち的には……というか、身体的には……むしろ続けてほしいくらいだけど……でも、ここでガッツく女ってどうよ!?
ここは、なけなしの「恥じらい」を総動員して断るべきではないだろうか?
蒼士とはずっと対等で良い友達だった。だからここで拒否して嫌われたくない。でも、ここで簡単に許して軽い女だと思われるのも嫌だ。
「う~ん……」
私が頭を抱えて呻いていると、キッチンの方から、ガッチャーンと盛大な騒音が聞こえてきた。
はっ! そうだった。この家にはまだ蒼太くんがいるんだった。
「今日は、やめとくか」
蒼士は苦笑いしながらそう言うと、うーうー呻く私の頭をぽんと撫でた。
きっと迷う私の気持ちを察してくれたのだろう。
ほんと気が利く。頭ぽんぽんも自然だわ。
「できれば、これに懲りずに、これからも良い友達でいてほしい。せっかくまた会えたんだから。……いや、友達じゃ足りないか……」
なになに? 何を言い出すの?
蒼士の耳の縁が赤い。
なに、このこそばゆい感じ。
これは、この流れは、もしかして――。
「兄さーん! ちょっと来て! 助けて~!!」
おい蒼太! 空気読めや。
学生時代に戻ったかのような甘酸っぱい雰囲気を一瞬にしてブチ壊す弟に殺意を抱く。
「あぁ!? なんだよ!?」
蒼士もブチ切れてるよ。
「……ったく、しょうがねぇなぁ」なんて呟きながらも、のそのそと立ち上がって音のした方へと足を向ける蒼士。
なんだかんだ、いいお兄ちゃんだからね。
「朱莉」
ドアに手を掛けた蒼士が振り向いた。
「なんていうか、その……交際を前提に、友達として付き合ってください」
真面目こくった顔で私を見つめながら蒼士が言った。
「……これでいいか? なんか違うか?」
照れ隠しからか、斜め上を向いて頭をボリボリと掻く蒼士。
「もうすでに友達だけどね。二十年前からね」
思わずツッコむ私。いつもはクールな蒼士の様子がおかしくて、笑ってしまう。
あ、嘲笑とかじゃないよ。
なんか嬉しくて。
そういう面もあったんだー……って、私の知らなかった蒼士を知ることができて。
うん、嬉しい。
「……よろしくお願いします。これからも。あらためて」
私が笑顔で言うと、蒼士も顔を大きく綻ばせた。
目尻にシワが浮かぶ。優しそうなシワ。私の大好きなシワ。
あぁ、やっぱり好きだなぁ……と、思いながら。
これから始まる(はずの)蒼士との新しい関係にガラにもなく胸を弾ませていたのだった。
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