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「あぁ、朱莉も観たのか? 実は海斗さんの動画作るの、手伝ってるんだよ」
私の作ったイカスミパスタを口に含みながら、蒼士が言った。
「え、なんで? 蒼士と鮫島さんって、そんなに仲良かったっけ?」
「高校の頃はそうでもなかったけど……。社会人になってからかな。うちの会社が魚貴族で使ってる業務システムを請け負ってて、俺も昔そのプロジェクトにいたから。その関係で再会したんだ」
「そうなんだ。システムかぁ……そういえば、魚貴族にもいたもんねぇ、ペッパーくん」
レジの片隅で項垂れていた憐れなロボットを思い出す。紺色の地に白い波模様の入ったハッピを着せられていたっけ。
「……いや、ペッパーくんはうちでは扱ってないから」
蒼士が唇を黒く染めながら生真面目に答えた。
「それより、海斗さんに会いたいなら、今度の撮影に朱莉も来るか?」
「え!? いいの?」
願ってもない提案。
さすが蒼士。
「うん、海斗さんには連絡しとくよ。来週の土曜日だから」
「わーい、ありがとう。予定空けとくね」
自分でも意識して可愛らしく言ってみたら、蒼士が目を細めた。彼の目尻に私の好きな笑いジワが浮かんでいる。ふふふ。
この時の私はまだ「海斗さんに会ったらサインしてもらおっかなー」とか「撮影を手伝ったら魚貴族のクーポン貰えるかなー」とか、とにかくお気楽でミーハーな想像しかしていなかった。
だって、すぐ隣には当たり前のように優しく微笑む蒼士がいて、これ以上ないくらい幸せな気分だったし。
だから、まさかこの出来事をきっかけに……あんなゴタゴタに巻き込まれることになるなんて、夢にも思っていなかったのだ。
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