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「おぉー、堀ノ内さん? 久しぶりー。キレイになったねー」
久々に会った鮫島さんが満面の笑みで嬉しいことを言ってくれる。絶対お世辞なのに、嘘臭さが少ない。さすが客商売。
ちなみに「堀ノ内」というのは私の苗字である。
堀ノ内朱莉。
幸か不幸か、生まれてこの方、一度も変わったことがない。
だから学生時代に出席順で並ぶときなんかは、苗字が「藤沼」である蒼士の後ろになることが多かったんだよね。
――週末。
ユーチューバー鮫島の動画はいつも自宅で撮影しているらしく、私はうちの実家から三駅ほど離れた鮫島さん家の最寄り駅まで来ていた。
懐かしい。
中学や高校の頃はよくこの辺りに遊びに来たもんだ。もちろん東京ほど栄えてはいないけど、一応、駅から直結したショッピングビルがあるし、カラオケやらシネコンやらも近くにあって、うちの地元では「遊びに行く」と言えば、この駅だったのだ。
あの頃はここでも十分都会だと思っていたけど、それ以上の都会を知ってしまうと、いかにも地方都市といった感じで何だか寂れて見える。
でも好きだけどね。
これぐらいがちょうどいいし、何より私には合ってる。やっぱり、身の丈に合う街が一番なのだ。
そんなことを考えながら歩くこと十分。
無事、鮫島さんの自宅に到着した。駅近の便利なマンションである。
オートロックを解除してもらい、さっそくお邪魔させてもらうと――
「デカっ!」
思わず叫んじゃったよ。
鮫島さんちのマンション、すっごい広い。そして、綺麗。真っ白。何だこれ、モデルルームか!?
そして部屋の奥にはオシャレなカウンターと設備の整ったキッチンが備え付けられていた。
なるほど、あの動画はココで撮ってたのか……。納得。この部屋なら撮影にも耐えられるわ。
「そういえば、鮫島さんって結婚してるんですか?」
こんなデカい部屋でひとり暮らしもないだろうと思って聞いてみると、
「ううん、ひとり」
あっけらかんとした答えが返ってきた。
「え、こんな広いマンションにひとりで住んでるんですか!?」
「なになに、気になる? ほら、俺って一応『御曹司』だからさぁ、いろんな女の子に狙われちゃって大変なんだよねー」
いえ、私が気になってるのは「『魚貴族』ってそんなに儲かるの?」ってことなんですが……。
それともYouTubeの収入なんだろうか?
どっちにしてもスゴいわ。
あーあ、私ももう少し早く鮫島さんと再会してたら狙ってたかもねー。
でも、今はいいかな。
だって、蒼士がいるから。てへ。
二兎追うものは一兎も得ないのだよ。
欲張っちゃダメ!
そもそもイケメン専務を取りあうなんて、そんな恐ろしい女の争いに参戦できるほど、ルックスにもスタイルにも自信がないしね。残念ながら!
身の程を弁えているのだよ、私は。
そんな身も蓋もないことを考えながら、密かに胸をそらしていたところに――
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