朱莉、かまぼこで餌付けされる

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 ポーンという呼び鈴が鳴った。 「あ、蒼ちゃん来たかな?」  そうだった。  蒼士とは今日も「一緒に行こう」って待ち合わせしてたんだけど、彼は昨日も遅くまで仕事だったらしく、寝坊しちゃって、約束の時間には間に合わなかったのだ。  あっ、もしかして、これも仕事みたいなもんか? 「魚貴族」はお客さんだって言ってたし。  蒼士も大変だよね〜……って、あれ?  あまりに自然すぎてスルーしそうになったけど……鮫島さん、いま蒼士のこと「蒼ちゃん」って言わなかった!?  蒼ちゃん!?  ちゃん付け??  蒼士、いつからそんなに鮫島さんと仲良くなってたの?  やはり侮れんな……地元コミュニティっやつは。 「すいません、遅れました」  軽く頭を下げながら、蒼ちゃん登場。  ベージュのカジュアルジャケットにカーキ色のチノパン。  うん、休日仕様のファッションも小ざっぱりしてて似合ってるよ。  ちょっと寝癖ついてて、目がしょぼしょぼしてるけど、そんな姿もなんか新鮮。ムフフ。 「……ん? 朱莉、なに笑ってんの?」  不気味に微笑む私に気づいた蒼士が怪訝そうな視線を向けてくる。 「ううん、なんでもなーい。それより、蒼士と鮫島さん、いつからそんなに仲良くなったの?」  自分の不審な行動から話をそらしつつ、気になっていたことを尋ねると、 「三年くらい前からかな? うちの注文システムを蒼ちゃんの会社に作ってもらったんだよねー。そん時に再会して、『あれ、もしかして藤沼くんじゃね?』って。いやぁ、学生時代の人脈ってのもバカにできないよなー。で、俺が『店の宣伝のために動画とかアップしたいんだけど』ってITに強い蒼ちゃんに相談するようになって、そしたら蒼ちゃんが手伝ってくれるようになって……って、そんなこんなで今や蒼ちゃんはうちの強力なサポートメンバーってわけ。な?」  蒼士が口を開くより先に鮫島さんが説明してくれた。まくし立てるように喋り終わると、鮫島さんは蒼士に向かってニカっと笑いかけた。  うん、白い歯がまぶしいね!  蒼士を見ると、うんうん、と首を縦に振っている。 「海斗さん、頼まれたもの百均で買ってきたんですけど……これで合ってます?」  蒼士が手に持ったビニール袋を鮫島さんに渡す。 「どれどれ……おぉ〜、オッケーオッケー」  袋の中身を確認した鮫島さんは機嫌が良さそうだ。 「なに買ってきたの?」  蒼士に尋ねてみると、 「ん? クッキーの型」 「クッキー?」  まさかのスイーツ回?  鮫島さん、お菓子も作れるのか。 「それと……これ。もちろん造花だけど」  蒼士が持っていたビニール袋の中から布製の桜の枝を一本取り出して、私の目の前に掲げてみせた。  わぁ。  ちょっと花があるだけで、部屋の中が一気に春っぽくなった気がする。  恐るべし、桜の威力。  まぁ若干安っぽいけど、百円の商品に求めすぎちゃいけないよね。 「蒼ちゃん、レシート出しといてー。後で払うから」 「え、いいですよ。ちょっとだし」  蒼士の何気ない一言に、 「ダメダメ。たとえ百円でも二百円でも、お金のことはちゃんとしとかないと」  鮫島さんがキッパリと答えた。 「この動画は店の宣伝のためにやってることだからねー。一番の目的は『魚貴族』を知ってもらうことだし、広報活動の一環だから、必要な経費を出すのは当たり前」 「おぉ〜」  鮫島さんの見た目に似合わぬ堅実さに蒼士とふたり、思わず感嘆の声を上げてしまう。 「よし! じゃあ、今日も始めるか」
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