朱莉、かまぼこで餌付けされる

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「ふぅ。お疲れー。あと食べるとこ撮って終わりだから」  試食シーンを撮るため、和室へと移動する。  和室まであるんかい!  八畳ほどの和室にはまだ新しそうな畳が敷かれていた。壁には掛け軸まで掛かっているが、残念ながらなんと書いてあるかはわからない。  さらに部屋の中央には高級そうな木製のテーブルがでーんと置かれていて……って、そういえば、なんか動画で観たことある気がする。この部屋! 「ほい、これで完成っと」  鮫島さんが機嫌良さそうに皿を運んできた。  テーブルの上に置かれた黒い漆塗りの平皿には二切れのはんぺんが並んでいた。  白いはんぺんと薄ピンク色のはんぺん。  いつのまにか五角形の花型にくり抜かれている。あ、もしかしてクッキーの型って、このためだったのか。 「かわいい。きれい!」  まるで和菓子みたいだ。  とてもはんぺんとは思えない。 「やっぱり画面映えが大事だからね。"映え"が」  ふふんと鼻を鳴らしながら、鮫島さんが桜の造花を添える。さりげなく、はんぺんの背景に映り込むように。  なるほど。たしかにカメラ越しの画面がパッと華やかになった(気がする)。  セッティングが整ったところで、撮影再開。 「はい! こんな感じで並べてみましたー。どうです、春らしいでしょう?」  じゃーん!  ……という効果音が聞こえてきそうな感じで、桜はんぺんをカメラの前に差し出す鮫島さん。 「ではでは、日本酒と一緒にいただきたいと思います!」  鮫島さんが桜の花びらみたいな薄ピンク色のはんぺんを一つ摘んでパクリと口の中に入れた。  もぐもぐもぐ。 「……うん、美味い!」  はい来た! 安定の鮫島スマイル。  それから、お猪口でグイッと一杯。 「くわぁーっ! 美味い!」  なんて美味しそうに呑むんだ!  こっちまでヨダレが出てくるではないか。 「……どうです? 意外に簡単なんで皆さんも作ってみてくださいね! あ、自分で作るのが面倒くさいって時は、もちろん魚貴族でも取り扱っておりますので、ぜひ食べに来てくださーい」  さすが鮫島さん。  最後にはちゃっかり『魚貴族』の宣伝までしてるよ。 「はい、カメラ止めます。お疲れさまです」  蒼士がそう告げて、本日の撮影は終了。  お疲れさまでしたー……って、私は見てただけだけどね。 「おぅ、お疲れ。蒼ちゃんも堀ノ内さんも、はんぺん食べてってよ」 「やったぁ! ありがとうございます!」  待ってましたーとばかりにはんぺんに飛びつく私に、蒼士の冷めた視線が突き刺さった。  ……が、ここは敢えて気にするまい。  美味しいお酒とおつまみを前にすると、いてもたってもいられなくなるのだ。  これだけは譲れないから、蒼士にも受け入れてもらわないと……!
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