朱莉、かまぼこで餌付けされる

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***** 「おぉ、アップしてまだ一日も経ってないのに、もう一万再生!? しかも高評価ばっかり!」  スマホの画面を見て思わず歓声を上げてしまう。  鮫島(さめじま)さん家で行われた動画撮影から一週間が経っていた。ついに公開されたあの「手作りはんぺん」動画。  幸い、評判は上々のようだ。  よかったよかった。  大した手伝いもしていないとは言え、やっぱり自分が立ち会った動画への反応は気になっちゃうよねぇ。  それにしても恐るべし、YouTube。  手軽に撮れて、簡単にアップできて、そんでもって世界中のいろんな人に見てもらえるわけだから、世間の人々がハマるのも頷ける。「ユーチューバー」が小学生のなりたい職業ランキングに入るなんて世も末だと思っていたけれど、今なら子供たちの気持ちも理解できる気がするよ。  鮫島さんのチャンネルの登録者数も十万人に迫る勢いだ。  コメントを見る限りだと、『魚貴族(うおきぞく)』の店舗がない他県のユーザーも多いらしい。他県どころか、日本語以外の書き込みもある。  鮫島さんの意図したとおり、この動画が店の知名度アップに一役買っていることは間違いなさそうだった。  ちなみに動画の編集は蒼士(そうし)がやっているらしい。器用だねぇ……って、完全にスタッフじゃないか!  蒼士ってば本業のほうも忙しいだろうに、ほんと人がいいよね。  今日だって土曜日だというのに、データの移行だかなんだかで仕事に行っているみたいだし。  その上、休みの日には鮫島さん動画の撮影やら編集やらに協力してるわけでしょう?  偉いよねぇ。そういうところが蒼士だよねぇ。  私なんか休みなのをいいことに昼まで寝ちゃったよ。だらだら最高。  あーあ、お腹空いたな。  お母さんがお姉ちゃん家に遊びに行ってる隙に、新作のカップラーメンでも食べるか。  へへ、かまぼこトッピングしちゃおう。  ちなみに、私が実家に戻ってきて以来、我が家にはかまぼこが常備されているのである。  軽く鼻歌なんか口ずさみながら冷蔵庫を漁っていると――  ピロピロリン♪  スマホの画面に何やら通知が。 「え、鮫島さん?」  送り主はまさかの鮫島さんだった。  そうそう、実はあれ以来ちょくちょく連絡を取り合ってるんだよねー……というわけでもなく、あの撮影のあとでお礼の挨拶をちょっと送ったくらいだったので、少し意外。 「んーと、なになに……『今日ヒマ?』」  これからお湯沸かすとこなんだけどなぁ、と思いながらも、『特に急ぎの用はないです』と返信。  嘘つけ。 「急ぎの用どころか不急の用もないでしょうが!」って感じだけど、ささやかな見栄を張ってしまった。  すると、間髪入れずに鮫島さんから返事が返ってきた。 『じゃあ美味しいモノ食べさせてあげるから、小綺麗な格好でココに来てねー。十三時集合』  ココってどこだ? と思ったら、次のメッセージにURLが張り付けてある。クリックしてみると、鮫島さん家の最寄り駅前にあるホテルの地図が出てきた。 「十三時って……」  げっ!  あと一時間ちょっとしかない……!  私はあわてて階段を駆け上がり、自分の部屋へと戻った。冷蔵庫ではなく、クローゼットの中を漁るためだ。 「ちょっとちょっと~。小綺麗な格好って、なに着てけばいいの!?」  鮫島さんからの思いがけないお誘いは嬉しいだけど、若干めんどくさいわー。  とは言え、先日は手土産も貰ったし(うちの親も喜んで食べてた)、高校の先輩でもあるし(昔は近寄りがたかったんだけど)、今日も美味しいモノ食べさせてくれるって言うし(ここ重要!)、断る選択肢はないんだけどね。  そんなわけで、私はカップラーメンを諦めて、いそいそと手持ちの洋服をひっくり返しはじめた。
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