朱莉、かまぼこで餌付けされる

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「あぁ、鮫島(さめじま)さーん!」  よかった、ちゃんと落ち合えて。  慣れない場所で知り合いを見つけた安堵感で、思わず顔が緩んじゃう。  分厚い回転ドアをすり抜けて、あっという間に私の隣までやって来た鮫島さんはめずらしくパリッとしたグレーのスーツを着込んでいる。店のハッピ姿を見慣れているせいか、一瞬だけ違和感を覚えたけど、よく見ると、それはそれでとても似合っていた。 「ごめんねー。急に呼び出して」  口では謝りつつ、内心は微塵も悪いとは思っていなさそうな様子で言うと、鮫島さんは目線を上げたり下げたりして私の全身を見回した。 「うんうん、良い感じ。今日も可愛いよー」  完全にお世辞だとはわかっているものの、褒められて悪い気はしない。  私が「そうですかぁ?」なんて言いながら照れ隠しで頭を掻いていると、鮫島さんがサラッと私の肩に手を置いた。  んん? 今日はやけに距離が近いな。 「ねぇ、今日だけ堀ノ内(ほりのうち)さんのこと、朱莉(あかり)、って呼んでもいい?」 「へ?」 「呼んでもいい? ……っていうか、呼ぶから」  そう言って、私の顔を覗き込むように首を傾げてニッコリと微笑んだ鮫島さん。  言葉づかいは柔らかいが、有無を言わせぬ迫力があった。だって目が笑ってない。  ふいに高校の頃の近寄りがたかった鮫島先輩を思い出した。いまの黒髪短髪さわやかイケメン御曹司とは違う、金髪(軽くヤンキー入ってた)時代の先輩を――。 「ちょっと時間押してるから、説明は歩きながらする。じゃあ行こうか」  鮫島さんは私の手首を掴んで大股で歩き出した。  え? え? え?  頭の中が「?」だらけなんですけど。  私は何が何やらわからないまま、鮫島さんの歩幅に合わせて、その後ろを小走りでついていくしかなかった。
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