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「まぁまぁ鮫島さん、そう怖い顔せんでもよろしいやろ。海斗くんの話を聞くのは、腹ごしらえしてから……っちゅうことで。ほな、そこのお嬢さんも一緒にどうです?」
おぉ、なんてナイスな助け舟!
この重苦しい雰囲気を和らげてくれた「救世主は誰!?」と思って声の主を探したところ、どうやら和風美人の隣に座っている男性であるらしい。
年の頃は大将と同じくらいだろうか。
はんなりとした関西弁に、ほわんと柔らかそうな笑顔。そういえば七福神のなかに、こういう感じの神様がいた気がする。
お見合いの席に同席しているということは、この女性の父親なのだろう。色が白いところ以外はあんまり似てないみたいだけど。
「こちら、甘鷲さん。京都の老舗の蔵元さんで、うちの店にも卸してもらってるんだ」
お互いが醸し出す「おたく、誰やねん?」という空気を察知したらしい鮫島さんが取って付けたように説明してくれた。
へぇ、京都の酒屋さんか。
「どうも。魚貴族さんにはいつもお世話になってますー。さぁ、立ち話もなんやから、お二人さんも座って座って」
甘鷲さんのお父さんのほうは福々と恵比寿様みたいな笑顔を浮かべているが、娘のほうは私に向かって鋭い視線(つまり、ガン)を飛ばしつづけている。
……だから、コワいって。
それはそうと、ここはもともと四人がけのテーブル席。「座って座って」と言われても、残念ながら私の席はない。
「あ、椅子が足りまへんな。すいませーん」
甘鷲(父)さん、またしてもナイスな気配り。
声をかけられた店員さんがさっそく追加の椅子を持ってきてくれた……のはいいけれど、なぜに私がお誕生日席!?
私からみて右斜め前に鮫島さんが座り、反対側の左斜め前には甘鷲(娘)さんが陣取るという席次はどう考えても気まず過ぎる……!
「それにしても海斗くん、うちのこと『老舗』やなんて紹介してくれはったけど、そんなん滅相もないで。うちなんてまだ二百年ほどの歴史しかあらへんし、まだまだひよっこみたいなもんですわ」
甘鷲(父)はそんなことを宣いながら肉付きの良い顔にニコニコと笑みを浮かべている。
うん?
これって自虐? 謙遜?
それともそうと見せかけた自慢なのか?
こういう場合、どう返すのが正解なんだろう?
「に、二百年!? すごいですねー。そんなに長く続いてる企業、この辺りにはないですよー。さすが京都の老舗は違いますねー」
私がちょっと大げさなくらいの身ぶりで驚いてみせると、甘鷲(父)の頬がいっそう緩んだ。もともと細い目がさらに細くなって顔肉のなかに埋もれている。
娘さんの表情も少しだけ和らいだように見える。
はぁぁ~、よかった。
いまの反応で合ってたみたい。
京都人の言葉は額面どおりに受け取っちゃダメ、ってネットに書いてあるのを見たことがあったんだ。まとめサイトもたまには役に立つね!
「そんなことより……。あなた、本当に海斗さんとお付き合いされてはるんですか?」
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