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再会の挨拶が済むと、三人でリビングのローテーブルを囲んだ飲み会が始まった。
聞き上手な蒼士と、喋り上手な蒼太くん。
子供の頃からの知り合いという謎の安心感……。
もう居心地が良すぎて、お酒が進む、進む。
「朱莉さん、どうぞ」
「わぁ、ありがとう」
蒼太くんが慣れた手つきでお酒を作ってくれる。
少し俯き加減でお酒をかき混ぜる彼の端正な横顔を見ると。
長い睫毛に、無駄な肉など一切ついていない尖った顎。
うん、横顔も完璧だ。
渡されたのは白ワインをソーダで割った透明なカクテル。
「ふふふ。美味しい」
この時にはすでに酔っていたと思う。
なんだ、ふふふ……って。
テンションがおかしい。こんな笑い方、素面なら絶対しないのに。
「ふふふ。蒼太くん、大きくなったねぇ」
まるで親戚のおばちゃんのように話しかけ、
「モテるでしょ~?」
酔った勢いでセクハラ発言を連発し、
「お肌もつるつる~」
シミひとつない頬に手を伸ばして、若い肌を撫でまわしまくったのだった。
「さっきは焼酎で今度はワインかよ。朱莉がそんなに酒強いとは知らなかったな」
蒼士が眉を下げて苦笑いしていた。
そういえば大人になってから一緒に飲むのはこの夜が始めてだった。
「う~ん? これはねぇ、東京で鍛えられたんだぁ」
そう。お酒の味を本格的に覚えたのは就職後に上京してからだ。
仕事のストレスもあったけど、それ以上に三年前に別れたクソ彼氏の影響が大きい。
「なんか偉そうなヤツでさぁ。会社の同期だったんだけど、さんざん上から目線で私にダメ出しした挙句、最後には浮気。もう最っ低……アッチもヘタなくせに」
心の中で呟いたつもりだったのに、しっかり声に出ていたみたいで、隣にいた蒼士がブハッと飲んでいたビールを吹き出した。
いや、あのクソ野郎とのソレは全っ然気持ちよくなくて。
みんなは気持ちイイもんなの?
イクって、なに!?
そんなのAVとかエロアニメの中だけの作り話なんじゃないの?
ファンタジーでしょ? 幻想でしょ?
それとも私がおかしいの?
当時の私は誰にも相談できず、慣れない土地で人知れず思い悩んでいたのだ。
そして気を紛らわせるために酒の味を覚えてしまった……と。あぁ、惨め。
「かわいそう、朱莉さん……。オレなら、朱莉さんにそんな思いさせないのに」
そう言って、仔犬みたいなつぶらな目で私を見つめる蒼太くん。
テーブルの下で、私の冷たい指の先が、彼の温かい体温に包まれていた。
「くぅぅ~……蒼太くん」
感極まった私は泣きながら蒼太くんに抱き着いた……ような気がする。
もうこの辺りから記憶が曖昧だ。
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