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「蒼太、あんまり調子乗んなよ。朱莉も飲みすぎだぞ、その辺で止めとけ。送ってくから、そろそろ帰ったほうがいい」
なんかちょっと蒼太くんといい雰囲気になりかけたところを蒼士に引き剥がされた気がしないでもない。けっこう強い力で引っ張られて、蒼士の胸の中に抱きとめらたような……。
蒼士の声がちょっと怒ってるみたいだったのを覚えてる。だって蒼士が怒るなんて珍しいもん。
「え? でも、兄さん飲んでるじゃん。今日はもう送っていく気ないのかと思ってたけど?」
「……歩いても大した距離じゃないだろ」
むむ? なんだか蒼士と蒼太くんの雰囲気がちょっと険悪になった気がして。
なになに、もしかして私をめぐって争ってるの?
……なんて、「少女マンガかよ!」みたいな妄想を脳内でひとり繰り広げてはムヒヒ、と不気味な笑いを浮かべていた私。痛い。痛すぎる。
「……調子に乗っちゃったんだよなぁ」
だってこんなシチュエーション、滅多に遭遇できるもんじゃない。
イケメン兄弟に囲まれて。
久しぶりに会った蒼士も蒼太くんも、全然久しぶりって感じがしなくて。
子供の頃に戻ったみたいに楽しくて――。
……で、浮かれて、はしゃぎまくった結果がコレ。
さらに、問題はここからだよ。
蒼士に送ってもらって、帰ろうとした私。
なんで帰ってないんだ? なぜ、まだ藤沼家にいる??
覚えてない。
思い出せない。
そういえば、なんだか妙にフワフワとした気持ちのいい夢を見ていた気がするんだけど。
長くてちょっとゴツゴツした指が絶妙な力加減で私の肌の上を這いまわって――
「って……もしかして、あれ、夢じゃなかったってこと?」
アレが現実に起きたことだったとすると――
「え…………どっち?」
――どう? 気持ちいい?
なんか夢の中でそんな恥ずかしいことを聞かれたような気もするんだけど……。
あれ、どっちの声だった? 蒼士? それとも蒼太くん?
耳元で囁かれた色っぽい声。
子宮にダイレクトに響いてくるような、低くて艶のあるあの声は……。
う~ん…………わからん!
兄弟だけに、あの二人の声ってよく似てるんだよな。
正気の時ならもちろん聞き分けられるけど、前後不覚で酔っぱらってたとなると……ゴメンナサイ。
「あぁ~……もう!」
どうすんだ! この状況……。
二十七にもなってヤラカシちまった大失態に頭を抱えて呻いていると、
「朱莉。開けてもいいか?」
聞こえてきたのは……蒼士の声。
「あ……っと、ごめん! いま行くから」
まとまらない寝起きの髪をなんとか撫でつけてドアへと足を向けた瞬間。
ベッドのサイドテーブルからハラリと落ちた一枚の紙。
拾い上げてみると、そこには――
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