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ピロピロリン♪
スマホの通知音に起こされて目を開けると、部屋の中はもう暗かった。なんという休日の無駄遣い。でもおかげで頭痛が引いてる。
「え。なんで……」
スマホの画面を確認すると、そこには『藤沼蒼太』の文字。いつのまにID交換してた!? ヤバい。それも記憶にないぞ。
そして、蒼太くんは何と?
『これから会える?』
えーと……。
昨日の今日でまた会うの?
なんで?
『会えないこともないけど』
数分間、迷った末に送ったメッセージ。
すぐに既読が付く。
『やった。じゃあ駅前のカフェで待ってる』
うむ。可愛い顔してなかなかゴーイングマイウェイじゃないか、蒼太くんよ。
「あ、朱莉さん。こっちー」
指定された店に行くと、蒼太くんが長い脚を持て余しながら優雅にコーヒーを啜っていた。
「あー。どうも」
昨夜の記憶が曖昧なだけにどんな態度を取ったらいいのかわからない。内心ビクビクしながら彼の正面の椅子に腰かけると、
「マフラー取らないの?」
私の首元を指差して、蒼太くんが笑っている。
そんなに寒いわけでもないのに、青色のロングマフラーをぐるぐると首まわりに巻きつけてきた私。
どうしてかって? キスマークを隠すためだよ!!
「あの……単刀直入にお聞きしますが」
私がモジモジと切り出すと、
「どうぞ。なんなりとお聞きください」
テーブルの上に頬杖をついた蒼太くんが、いたずらっぽく微笑んでみせる。これがまたカッコいいから腹が立つ。
「蒼太くんは、このマフラーの下に何があるかご存知なんですか?」
いかん。なんか緊張して必要以上に敬語になってる。
「んー? なになに、何があるの?」
質問に質問で返してきやがった。
なんか楽しそうだし……こいつ、絶対わかってるな。
「あの……ごめんなさい! 実は、その、私……なんにも覚えてなくて」
こういう時は、とりあえず謝るに限る。
「……は?」
おぉ、蒼太くんの顔から笑みが消えた。
ちょっと怖いぞ。
「だから、その……昨日の夜の記憶がですね、まったくないのですよ……それで、あの、できれば何があったか教えてもらえないかなー……なんて」
蒼太くんの目を見る勇気がなくて、マフラーに顔をうずめたまま言ってみた。今度は軽い感じで。
返事は返ってこない。
沈黙。
「はぁ」
溜息。
蒼太くんの溜息が雑然とした店内でヤケに大きく聞こえた。
「もういいや。行こ」
伝票をもって立ち上がる彼。
「え? 行くって……どこに?」
昨日ナニがあったか、教えてくれないの?
肩すかしを食らってぽかんと口を開けた私を見下ろしながら、蒼太くんは唇の端をニヤッと持ち上げてみせた。
「ホテル。もう一回同じことヤレば、鈍感な朱莉さんもさすがに思い出すんじゃない?」
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