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一行は寮の脇の急な斜面を登り、山中に分け入って行く。
長が先導して、残り香の様に残った、僅かな気配の跡を追った。
足場の悪い斜面を登り切ると、不意に立ち止まる長——。
「どうしました?」
直ぐ後ろを来る島田が尋ねる。
「気配が……。変わった気がするのぉ?」
長は森を見上げ、辺りをゆっくりと見回す。
「気配が? また小さくなりましたか?」
「いや、数が増えたぁ?」
「えっ!? 1匹じゃ無かったんですか? 不味いですよそれ!!」
「——いや、また膨らんだだけ、なのか?」
「どっちなんですか? 学校に行かれると不味いですよ!? 三上さん1人ですし」
「さっぱり、分からん。これは新たな気配なのか? ただ邪気が膨らんだだけか? まぁでも、気配の方向は学校側では無い。問題無い。森の奥からじゃ。とにかく、先へ行くしかあるまい」
長は自問自答する様に言って、再び歩き出す。
一行はさらに、傾斜が大分緩やかになった山道を進み、森の奥へと進んだ。
そして——
「あれは!?」
島田が言う。
眼前に小さなトンネルが口を開けていた。
山の斜面というより、山の一部を切り崩して一旦垂直な崖を作り、そこに人工的なコンクリートのトンネルを造ってあった。
振り返り見れば自分たちが歩いて来た道は、小さな谷間のようになっている。
今まで来た道も、傾斜が自然と緩やかになったというのではなく、トンネルまでの斜面を掘り、人の手で水平に近い道にしてあったのだ。
それが長年使われていない為に、ほとんど自然の状態に戻っていて気が付かなかったのだ。
トンネルの出口直ぐの地面はコンクリートだった。中途半端な感じに途切れている。なんらかの理由で、途中で造るのを中止したのだろう。
山の中に突然に現れた古びた人工物は、忘れられた廃墟に迷い込んだような、なんとも言えない不気味さを感じた。
忠野が、島田の驚きに答える様に言う。
「そう言えば、さっき助けた子らが迷い込んで、心霊写真を撮った通路があるとか、前に話を聞いた時に言ってたな? これがそうか?」
「迷い込んだ……?」
「えぇ…」
と忠野が声を発せようとした時
「——貯水池から水を引く為の物だよ。完成前に事件が起きて、工事が中止になったんだよ。だから反対側は、水が出て来ないように扉が付けてある」
「なるほど。——って、エッ!?」
背後からした少女の声に振り返る島田。
そこには彩の姿があった。
さらに、さっき助けられた由美子、紗江子、咲夜が。
そして、
「どうしたの!? 賢君とキュン君も!?」
「すいません」
「俺は止めたんだよ?」
と賢とキュン。
「決着を付けてに来たの。どう考えても、私達が始まりだからね。皆んながあの寮の脇の斜面を登ってる時に確信したよ。今回のことは、あの貯水池に行った時から始まったんだ」
彩は全てを悟ったような口ぶりで言う。
「いやちょっと待って!? 一緒に来る気? 君達は連れてけないよ!? 社会科見学じゃないんだよ?」
「やだ行くっ!」
「やだってねえ!?」
「行くわよ! 裕美達の仇を取るわっ!」
「行くわ! 正体を見ずに終われないっ!」
「私も色々疑われたし行く!」
由美子、紗江子、咲夜も彩に続く。
「ちょっと、君達もねぇ! 分かってんの!? 死ぬかもしれないんだよっ!!?」
「良いじゃろ。連れてってやれ」
「えっ!?」
「本当なら、山の神の居る山に、若い女を連れてくなんてご法度じゃが仕方あるまい。此処で待たす訳にもいかんじゃろ。襲われるかもしれんし。帰すにしても帰り道で襲われるかもしれん。気配がおかしいままじゃ。大きいのはトンネルの中から感じるが、森からも似た気配を僅かに感じる。単に残像のように、森に邪気が残っているだけなら良いが——」
「やはり、もう一体居るんですかっ!?」
「分からんが、森の中に別に居るにしても、あの蛇公よりは大分弱いじゃろ。1匹じゃ」
忠野がハッ!? と思い出した。
「ゾンビみたいな獣かもしれません? あのマタギの集落で話したでしょう? 瘴気にやられた獣達の話を——。前に佐古田という男の家で、そつらと一戦交えた事があります。それが集まって、あの大蛇になりました。佐古田の家は、この森の裏です!!」
「なるほどな。そうかもしれん。化物の瘴気を受けていれば、そりゃ気配は似てくる。お主らが狩り逃したのが、森をさまよって居るのやもしれんな」
「大群なら危険ですが、犬猫1匹なら三上でも問題ないでしょう。銃を持ってますし、殺し方も分かってる。さすがに、この子達では無理ですが——」
「中の奴を倒せば問題ない。瘴気の主が死ねば、使い魔としての役目を無くして、屍に戻り朽ちて消える」
「ちょっと、長っ!! 本当に、この子達を本当に連れてくんですかっ?」
島田が2人の話に割って入り言う。
「仕方ないじゃろ? 足でまといなのは、武器も持たんお前も一緒じゃ。どの道ワシらが勝てねば、学校に居ても殺される。戦えんのじゃから、お前が面倒みたれ」
「……マジですか。」
「マジじゃ。それに、もしかしたら其奴らが役に立つやも知れん」
「——役に?」
「話、分かるね! お爺ちゃん!!」
彩は長の肩に手を置き、満面の笑みで言った。
「……お、お爺ちゃん。まあいい、とにかく急ぐぞっ!? 敵はこの中じゃ」
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