森の賢者

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「行きますよ! 長ッ!! 動きながら攻撃しましょうっ!! 止まっていてはやられるっ!!」 金井は走りなが、化物にライフルを放つ。 パン! ッと発射された弾丸は、化物の右脇腹辺りに命中したが、血は出るが致命傷ではない。動きはまるで変わらない。 象や鯨すら仕留める弾で、やっと傷を負わせられる程度だ。 中心への攻撃はダメだ。 という事は中心付近に集中する、脳や心臓などの急所もダメ。 狙うは末端——。 「此奴は実質片足です!! 俺は足を狙いますっ!!」 金井はもう1本のまともな方の足、右足のくるぶしを狙う事を決める。 撃ち抜けなくとも、関節を壊せば、どんなに力んでも立つ事は出来なくなる筈だ。転がしてしまえば、狙いは付け易い。 金井は動きながら、化物の右足を狙う。 長も金井だけに化物の注意が行かないように、飛び上がり錫杖で殴り突き翻弄する。 じきに初めて組むとも思えない程の、コンビネーションを2人は見せ始める。 金井の弾が切れれば長が引きつけて、長に攻撃が迫れば金井が気を逸らす為に当たる場所に当てる。致命傷にならなくとも、体に穴を開けられては堪らず、化物の動きは一瞬遅れる。 段々とお互いの思惑も分かり始めて、リズム良く阿吽の呼吸の攻撃が続く。 忠野は2人の姿に目を見張った。 自分より老齢で、背丈も変わらぬ老人2人が、化物を翻弄している。 訓練を積んだ特殊部隊の隊員ですら、この化物相手には簡単にはいかないだろう。自衛隊だって——。 若さゆえの思考の柔軟性とは別の、沢山の経験を積んだからこその出来る技だった。過去に経験した事を引き出して、今の戦いに当てはめて活かす。そんな戦い方だ。 当然まるで同じ経験はないが、この戦いに活かせる経験は2人はいくらでも踏んでいた。 だが、今回初の経験が金井に誤算を生む。 特大口径の弾丸を使ったライフルの反動が蓄積し、だんだんと金井の身体に、障害を及ぼし出す。銃床の土台と化している右肩は、既に悲鳴を上げている。また噛まれた左肩も良くはない。巨大な爆発力を支える為に、ライフル自体も並みのライフルより頑丈で、その弊害として重いのだ。いつもと勝手が違う。 狙いを定める左手が、段々と僅かだがズレ初めて来ている。 身体ももう若くはない。長は常人とはまた別の鍛え方をしているので、まだまだ十分に戦えそうだが、基本狩猟は止まって撃つ、拳銃を持っての映画やドラマのような銃撃戦なんて絶対にない。体力の消費も早い。 金井もその事は重々承知だった。あまり長くは戦えない。 金井の頭に今まで狩って来た熊達の姿が過ぎる。 自分の不安を払拭するかの様に、目の敵にして狩って来た熊達。奴らは無実であった。 奴らにとってはこの化物こそ、自分達の無念を晴らす救世主という所だろう。申し訳なく思うが、人間としては負けてやる訳にもいかない。 自分のして来た事だ、都合良く今更神頼みはしない。自分の命を掛けるのみだ。 金井はより危険を冒して、前に出て、右くるぶしを狙った。 その1発が化物のアキレス腱に当たる部分を横から吹き飛ばした。 その瞬間、今まで微動出していなかった化物が揺らぎ、左膝を付いた。 金井はさらに畳み込もうと前には出ない。 さっき犯した失敗はもう犯さない。 逆に、今度は十分に距離を取る為に、化物の手の届かない範囲まで下がって動向を見守る。 金井は肩で大きく息をして、体力の回復と温存を図る。 手負いだからこそ、気が抜けない。 長がこっちを見ている。 長はそれで良いと言うように、金井を見て大きく頷く。 暫くの間、お互いに根比べが続いた。 先に動けば、ヤられる。 そんな空気だった。 先にその勝負に負けたのは化物の方だった。 ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ———————————————————————————————ッ!!!!!!!!!!! と野太い咆哮を挙げる。 化物は立ち上がる事なく、もう片膝も着くと両手を振り上げ、広げた掌を地面に叩き付けた。 ズドンッ!! という音と共に グラグラと地面が大きく揺れた。 立っていられない程だった。 それでも長は微動だし無かったが、金井は倒れこそしないが、ライフルを構えていたのでバランスが取れずによろめいた。 その一瞬の隙を化物は見逃さなかった。 すかさず左手を伸ばし、金井の胴に指を巻き付かせる。 両腕諸共掴まれた為に、ライフルを撃て無い。 化物を捕まえた金井をそのまま口に運ぶ。 今度は肩ではなく、頭を喰い千切ろうというのだ。 金井に巨大で鋭利な牙が迫る。 化物の口の中に、金井の頭が半分程入った時、飛び上がった長が残った化物の左目を錫杖で突き刺した。 グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!?????? 化物は悲鳴を挙げて、持っていた金井を地面に叩き付けた。 ライフルは金井と離れた場所に転がる。 「金井ッ!!!」 長は叫ぶ。 金井は全く動かない。 声だけを頼りに、化物は長の頭の上から平手を浴びせる。 長がそれを避けると、ズドンッと掌は地面にめり込み地面をまた揺らした。 両目を潰されても、その威力は全く落ちていない。いや、むしろあるのか無いのか分からないが、人の理性と呼ばれる物のたがが外れたのか、威力は増している様にさえ感じる。 簡単に金井を助けに行けない。 助けに行けば、足音から居場所を気付かれるだろう。 日頃の修行により、人に気付かれない程度には早く動けるが、例え目が見えなくとも耳も鼻も感も人間の何十倍も利く獣相手には通じないだろう。 気付かれたとて、長自身はかわせば良いが、逃げられない金井を危険に晒す恐れは大きい。 長は1人化物と戦う事になった。
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