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長は今まで同様、錫杖1本で化物を相手にするが、金井の援護が無くなった分、体力の消耗は倍近くになる。
それでも、日ごろ鍛えた身体と精神力は、そう簡単には折れない。
化物も捉え様のない長の動きに、じきに苛立ち始める。
長に取っては、気の散った獣を翻弄するのは、さほど苦ではなかった。
動きが単調で、攻撃が大ぶりである。避けるのは容易い。
そんな攻撃では、じきに化物の体力が尽きる。
その時こそ、真の反撃の始まりだ。
涼しい顔をして、内心ではそうほくそ笑む。
——だが、ふと化物が見る方向を長から変えた。
金井を狙っている。
金井は目を覚まし、上半身を起こそうとしていた。
その息遣いを、化物は戦いの中でも聞き逃さなかった。
手軽に仕留められる、手負いの獲物を優先する。獣の狩の鉄則だ。
化物は金井へ向かう。
長は走り高く飛び上がると、錫杖を背を向けた化物に突き立てた。
錫杖は化物の右肩の後辺りに突き刺さった。
長は錫杖をそのままにして、化物の肩を足場に金井の元へ飛ぶ。
化物は刺さったままの錫杖を抜こうと必死に踠いていた。
「暫くそうやって1人で遊んどれいッ!!」
長は化物にそう言って、金井を肩に背負い、皆の隠れる岩場まで走り飛び上がる。
長は金井をその場に寝かせて
「頼んだぞ!」
そう言うと、再び化物の元に向かった。
「金井さん! 大丈夫ですか!!」
忠野は体を起こそうとする金井に手を貸し訊く。
「俺は大丈夫だ。それより、俺の、……俺のリュックを。開けてくれ」
金井は声を絞り出し言った。
キュンは預かっていた金井のリュックを開いて中を見る。
「?」
中には
「バトン?」
の様な物が沢山入っていた。
賢が覗き1本取ると
「これカーボンだよ。三脚の素材でもある」
そう言った。
「祖父ちゃんの釣竿もカーボンだな。これは三脚? 釣竿か? 」
「どちらでもない。柄だ。それを全部繋げるんだ」
「繋げる?」
「良く見ろ。ネジが切ってあるだろう。特注で作ったジェラルミン製だ。軽量で強い。早くそれを繋ぐんだ!」
「え? 繋いでどうすんの?」
キュンは首を傾げる。
「良いから早く繋ごう!」
何だか分からないが、きっとあの化物を倒す為の物だと賢は察する。
「良し皆んなでやろう! 手分けすりゃ直ぐだ!!」
彩がリュックを持った2人の間から顔を出して言う。
全部で10本、それを賢、キュン、彩、由美子、咲夜で2本ずつ取り繋ぎさらに、繋いだ5本1本にする。
「これでどうすれば良いんですか!」
繋いだポールを持って賢は訊く。
「言ったろう。それは柄だって。先にこいつを付けろ」
「それは!?」
金井が腰に付けた鞘から抜いたのは、あの大蛇の尾を刺した熊槍の穂の部分であった。
「こいつをそれに付けて、あの化物をこっちにおびき寄せる! そして襲って来る化物にそいつを突き刺す」
「どうやってですかっ!」
「今から話す!」
金井は最後に力を振り絞る様に簡潔に、作戦を説明した。
「分かったか!」
「分かったけど、上手く行くかしら? 私達子供だけで——」
いつになく紗江子は弱気だった。
「俺も居るよ!」
島田は言って続ける。
「君達は子供だけど、此処まで来たろう。今だって、震えて縮こまったりなんかしてない! 行けるさっ」
「あんまり、島田さんに言われてもピンと来ないわね?」
「大丈夫だ! 俺も彼と同意見だっ!!」
金井がウンウンと頷きながら言った。
「金井さんが言うんだから、大丈夫だ!!」
忠野が言った。
「そうですね。やりましょう!」
紗江子がそう答えた時——
ガンッ!
物凄い衝撃音と共に、また岩が揺れた。
岩に長の錫杖が突き刺さった。
長は錫杖無しにまだ化け物と戦っている。
肩に刺さった錫杖を化物が抜き投げたのだろう。
「早く長に投げてっ!!」
「うん!」
そう言いキャンが錫杖を抜こうとするが
「これ抜けないよ!」
ビクともしない。
「ちょっと貸してみろ!」
賢が代わり気付く
「これ、木じゃないっ!? 黒く塗った鉄の棒だよ!! こんな物、振り回してたのかよっ!!」
「それを抜くのは諦めよう。とにかく作戦開始だ」
忠野が言った。
「はい!」
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