森の賢者

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長は錫杖無しで化物と戦っていた。 錫杖の分リーチが稼げていたが、それが無くなった分、全ての攻撃が死と隣り合わせだ。 「長! こっちに、そいつをっ!! 忠野は叫ぶ!!」 忠野は声を張り上げた。 長は忠野の方を見て頷く。 激しい戦いの中でも、声は聞こえている。 長は攻撃をしながらワザと、音を立てて化物を岩の方に誘導する。 忠野は長を援護する様に、拳銃を撃つが焼け石に水状態だ。 効かないどころか全く反応さえしない。 まだ長の徒手や蹴りの方がマシなくらいだ。 「くそっ! 此処まで効かんのかっ!! 注意を引くだけでいいのに——」 長は忠野の声を背中で聞いていた。 化物の攻撃を避けながら、金井の落としたライフルに近付く、化物の攻撃をジャンプし避けると着地と同時にライフルを拾いただのの方に投げた。 一瞬、目を逸らした瞬間、化物の払った掌が長を捉えた。 捕まりこそしなかったか、化物の裏拳をもろに喰らって吹き飛んだ。 化物は目は見えないが感覚で長の飛んだ方向は分かる。 長を追おうとする。 その瞬間—— パンッ!! 一際大きな発砲音がして、化物の左肩が後ろに少し反れた。 忠野が家内のライフルを撃ったのだ。 金井はその反動に驚いている。刑事であるから拳銃を撃つ練習はして事があるし、ショットガンの免許も持っているのでクレー射撃の経験はあったが、比では無かった。肩が外れかと思った。 「金井さん。あなたこんな物を撃ちながら、あんな化物と戦ってたんですか? 長も化物だが、あんたも十分化物だ……。」 「良いから、ちゃんと狙いを定めろ」 そう言いながら、咲夜に支えられた金井は、腰のガンベルトを取り忠野に差し出す。 「ありがとうござます!」 金井はガンベルトを受け取り腰に巻く。 「使い方は分かるな?」 「はい!」 「奴をこっちに誘い込むんだ。急所を狙って、倒さなくて良い。だが十分に怒らせろ!!」 「分かりました!」 忠野はライフルを構えて、肩を打たれて怒りに震える化物を撃つ。 今度は右脇ばらに当たるがやはり倒れる事はない。 化物は腰を屈めた。 「不味い跳ぶ気だっ!! 飛んできた場合、奴に計画通りの攻撃は出来るが、こちらも逃げ場が無くなる。踏み潰される!!」 万事休すか! そう思った瞬間、化物が前のめりに転んだ。 「金井さんが打ち抜いたアキレス腱が来てるんです!! 今です撃って下さい」 島田が叫んだ。 見ると右足のアキレス腱部分が完全に断裂していた。 切れ掛けてる所で、思い切り感情任せにジャンプしようとして、一気に負担が掛かり完全に切れたのだ! 忠野は撃鉄を引き、引き金に指を掛けるが、弾が出ない。 弾切れだ。3発しか撃てない。既に1発金井が撃っていたようだ。 化物は足がダメでもまるで問題無く、両手だけを使い迫って来る。 弾倉を詰め終わった忠野が、化物の腕を狙う。 ——が外れる!? 「狙わなくて良い! とにかく真っ直ぐにこちらへ突っ込ませろ!!?」 金井は叫ぶ。 「はい!」 パン! パン! と金井は連続して発砲する。 今度は当たり易い身体の中心を狙った。 2発とも化物の胸辺りに命中した。 「それで良い!!」 だか化物は止まらない、這いずるように両腕だけで、足を引きずらせて皆の乗る岩に迫る。岩の目の前で手を伸ばす化物。後1mも伸びれば、忠野に手が届く! その時、忠野の横から槍の穂先が現れて前に伸びる。 穂先はそのまま、化物の最初に金井が打ち抜いた左目に突き刺さる。 槍を皆で抑えて、柄の尻は岩に突き立ててある。 力など要らない。化物は自ら槍に刺さり、その衝撃は全部岩が受け止めた。 皆は狙いだけ付けていれば良いのだ。 昔ながらの熊槍で熊を仕留める方法だ。 とはいえ、迫る化物を前に目を瞑る事も無く、槍を構え続けたのは大した物だった。 カーボンの柄は大きく弓なりにしなりバシッ!!? と音を立てて折れると共に、化物は岩に胸から倒れこむ。 その衝撃で、皆岩から投げ出された。 ホォギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア——————————————————————————ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!????????? 槍は目だ玉にほとんど全て突き刺さっている。 30cmはある槍だ。脳に届いても良さそうな物だが、まだ化物は痛みに暴れ続けている。倒れる様子はない。 「ダメなのか……ッ!?」 体を起こした賢はさすがに力なく呟いた。 その時、長が跳ね上がった。 手には錫杖が!!  長は錫杖を槍の折れた柄の刺さってた穴に差し込むように、両手で思い切り突き立てた。 ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア——————————————————————————ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 化物は身を仰け反らせて、もう一度先ほどよりも大きく叫ぶと、プツリと糸の切れたように脱力して ドサリッ……。 とその場に頭から倒れ込んだ。 ……………………………………………………………………………………。 皆はその様子を見つめていた。 動かない。 ……動かない!? 「倒したぞぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお———————————っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 長が勝利の声を挙げた。 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお————————————————————————————————ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 皆から自然と感性が湧き上がった。 そして、そこで皆体力を使い切り、歓声が止むと共にその場に崩れ落ちた。 咲夜は這う様にして、金井に近寄る。 「金井さんっ!?」 そう叫び、口元を両手で押さえる。その瞳から一筋の涙が伝うと、次から次へと流れ出した。 その様子に皆んな悟った。 金井は既に息絶えていた。 本当に命と引き換えの勝利となった。 皆胸の中で金井の冥福を祈った。 駆け寄りたいが、力が出なかった。 その時、 「うわぁああー!?」 キュンが声を上げた。 皆キュンの方を向く。 「コイツまだ動いてるよっ!?」 キュンは震える声で言った。
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