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——それから、しばらくトンネルの前で時が過ぎるのを待った。
そろそろ日が暮れる頃合いだが、そこはいつまで経っても、日の明るさが変わらなかった。だが、気付くと空は晴れているのに太陽が無かった。
雲もない。途方もなく青い深い空があるばかりだった。
「少し中を歩こう。もしかすると、此処で暫く暮らさなくてはいけないかもしれない。食料くらいは探しておこう。行動は皆んな一緒の方がいい。何があるか分からないからね」
島田は立ち上がりそう言った。
島田に着いて、皆歩き出す。
草原を抜けて、あの化物と戦った広場を抜けて、さらに断崖の下を進んだ。
「あの、失敗したって。パンドラの箱を開けたってなんなんですかね?」
賢は島田の横に並び訊く。
「実は僕も、長や山伏の言葉を今思い出して考えていた。長はあの化物にハメられたと言ってたね」
後ろからも声がする。
「裕美無事だったんだね! もうダメかと思ったわ」
「拐われて、あの屋上に化物と暫くいたわ。あの化物ずっと建物から下を見てた。それで暫くすると、私を置いて下に降りて行った。あの方向は、きっとさっき来たトンネルの方に向かったんだと思う。目線もそうだった。まあ、背中越しで見てたから、実際は分からないけど、頭の動きがね」
「私達を追ってたのね?」
「で暫くして、もう帰って来なそうだから、私は屋上の出口のドアへ向かったの。鍵が掛かってたから、必死に壊したわ。今逃げなきゃ殺されると思った」
「で、あの猿の群れは? 皆んな、校庭に避難してて合流しようと学校の中から見てる時に突然現れたの。皆んなと出会う少し前よ」
「ああ、それで学校から出て来て出くわしたのね?」
「うん。学校の中にまで入って来たからね」
賢と島田が話している後ろから、キュンが走って来て追い抜いた。
「おいキュン! 危ねえぞ! 1人で行くな!!」
賢は声を張り上げる。
「大丈夫だよ! 少し先を行くだけだから!! なんか此処に居たら体力回復して来た!!」
「まったく……。でも確かに体が軽いな。」
「おい皆んな!? ちょっと見てくれ!!」
先を行くキュンが声を挙げた。
皆はキュンの声のする方を目指す。
キュンは既に50mも先にいた。どこにそんな力が残っていたのかと思うが、皆もそういえば自分の体も軽いという事に気付いた。
キュンは断崖の上にいた。
自分達の歩いている先は崖だったのだが、キュンが呼んだのはその事では無かった。崖の下に、神殿のような岩の建物の集落があった。
そして、その崖の壁面には下に降りる階段が彫られていた。
小さな階段ではない。
二車線道路ほどもある立派な階段であった。
皆はそこを降りて、あの集落を目指した。
階段を降りて、数百m行くと集落に着いた。
「これは何かの遺跡か?」
島田は興味深げに、辺りを見回し言う。
岩を削って建てられた神殿が並び。
その作りはマチュピチュの遺跡を彷彿させるが、サイズが大きい人の住む為の物には思えない。
さらに奥には立派な石造りの祭壇があった。
そこには肉を削がれ、骨と皮になったあの化物が置かれていた。
骨を組み挙げて、その上に皮をかぶせて、さらに上に頭が乗っていた。
何かの儀式の後に見える。
「……生贄だろうか?」
島田は自問するように呟く。
「あれ!」
賢が指差し言う。
そこにはあのマタギの集落で見た、男根のトーテンポールがあった。
同じに2本並び、同じく階段があり、その上には壇上があった。
だが壁に画が描かれていた。
それは、全身に毛の生えた人の子に見えた。
「これが、あの集落に無かったご神体ですか?」
賢が訊く。
「いや、これは新しい。最近描かれた物の気がする。この遺跡は、経ってから数百年は経ってそうだ。まあ、毎年ああやって描くのかもしれないけど。なんとも言えない」
そう言った時、急に辺りが暗くなった。
確かに外の時間帯では、もう夜だろうが、いきなり暗くなるのはおかしい。
そして、此処には雲一つない。
嫌な。気しかしない……。
皆が空を見上げたと同時に、
———ズドンッ!!!
と背後に何かが落ちて来た。
その衝撃に、思わず皆その場に尻餅を突いて倒れた。
皆は後ろを見て、再び戦慄する。
またあの化物がそこにはいた。
最初に倒した物にそっくりだが、サイズが倍近いつまり10mはあらんかという大きさだった。
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