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飲み屋街にある小さな居酒屋『泉』。
開店前に仕込みをしていた店主の泉聖悠は、背中を後ろに逸らした。
「はぁ……ちょっと休憩するかオクラ。まだ開店前なのに肩凝っちゃったな」
店に放していた飼い猫のオクラは、目を細めて聖悠に返事した。聖悠はカウンターの方に出て屈み、オクラの頭を撫でてやる。
そんな和やかな雰囲気の店内で、引き戸が乱暴に開かれた。
「ちょっと……!!」
「ん……? あ……ヒロのとこの……まだ店は開けてn」
「貴方はどこまで知ってるんですかっ、あの人の事っ! 僕と慶介の事も全部知ってるんですか!? 僕だけが何も知らされてないんですか!?」
「ちょっ、落ち着け……!」
いきなり入ってきたと思ったら、宗介は取り乱して聖悠の服を引っ張り、掴み掛かった。状況が飲み込めない聖悠は宗介に揺さぶられながら、困惑。
床に居たオクラは、その様子を不思議そうに眺めていた。
─ ─ ─ ────
宗介をやっとの思いで宥めた聖悠はカウンターにお茶を置き、隣の椅子に腰掛けた。
さっきまでの勢いはもう無くて、宗介はカウンターをどんよりと見つめていた。その様子を見て、聖悠は脱力した。
「そりゃあ……あんな事突然聞いたらパニックにもなるよな……悪いな。もっと強く宏鷹に言ってやればよかった」
聖悠は家政夫の宏鷹と同じ施設で育ち、宏鷹に店を手伝ってもらう程、気の知れた仲だ。宏鷹の事情も、以前から知っていた。
三人が飲みに来た時に双子とたまたま再会して、仕事の担当になった。そう宏鷹に聞かされたばかりだった。
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