武器よサラバ(仮)

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 その前に画面にノイズが走り、砂嵐に侵食されて事切れた。画面の真ん中には×マークが表示され、その下には『この動画は削除されました』と表示される。  明石(あかし)世名(せな)は、自身の机に置かれたタブレット端末を覗き込んでいた二人とともに顔を上げた。人もまばらになった放課後の教室、窓際の一番隅の席で世名は友人二人に囲まれて、動画を見ていた。 「あーあ、消えちゃったよ」  世名の左側にいる池下がため息交じりに呟いた。その声は、残念よりは諦めの強い口調に聞こえる。 「最後まで観れたことないよ、これ」  そう言いながら、池下はタブレット端末を持ち、操作をし始める。 「それだけ政府に警戒されてるってことだろ。英雄団だけだもんな。まだ反戦主張してんの」  右隣にいる橋本が机に頬杖をついて、事も無げに答えた。池下は鞄の中からタブレットと入れ違いに雑誌を取り出し、机の上に置く。雑誌の端で膝を突かれて、橋本はうざったそうに身を引いた。わざわざ見開かれて置かれたページには、筋骨隆々な男が写っている。黒々とした銃口をこちらに向けている。光を受けて輝いたその眼は、『憧れの的』にさせるには充分なほどに自信に満ちていた。  滑稽だ、と心の中では思う。だが、それを悟らせないように世名は努めて笑顔をつくった。 「今は反感勢力よりこっちの方が断然かっこいいよな~。俺も来年にはこの人みたいになるぞ!」  池下は目を輝かせ、意気揚々と語り出す。世名は黙って微笑んだまま、無心で二人の会話を聞いていた。 「ただ兵役行くだけだろ。大学入ったら皆行くだろうし、お前が脚光を浴びることはない」 「えー! やっぱ大学入ったら皆行くの?」 「就職してから行くと、有休使えないらしいぞ」 「まじか!」 「てかなんで行かないと思った?」 「……留学、とか?」 「兵役も留学みたいなもんだろ」 「あ、そっか。……って、沖縄は日本だろ!」  二人が一斉に笑い出す。世名は心の底で冷えたものを感じつつ、二人に合わせて笑ってみせた。 「おい、明石」  声のする方に目を向けると、体格のいい体育教師・前園が教室のドアの前で仁王立ちしていた。そして、ひょいひょいっと手招きをする。 「じゃあ、また明日」  世名はそう言うと、鞄を持って、前園の方に向かった。おう、とそれぞれに挨拶をする二人に背を向けると、すぐに背後から抑えた声が耳に届く。 「そういえば、あいつ今、一言もしゃべんなかったよな」 「しょうがないだろ。あいつには関係ない話だ。それに、あの身体じゃ戦場では使い物にならないだろ」  そう話す彼らの視線の先には、明石世名の姿があった。  ハンドリムを握る手に、思わず力が入る。速度を上げて、車輪と地面が擦れ合う音で彼らの声を打ち消した。その音と、ギターを掻き鳴らす音が耳の奥で共鳴する。伏せた瞼の下で、赤い光が線を引く。ふつふつと湧いてくる嫌悪感を振り払うように、世名は心の中で呟く。誰に何を言われようと、気にしないと決めたのだ。もうこれでしか、前に進めないのだから。  20××年5月3日。憲法記念日。彼の両足の自由が奪われたのは、忘れもしないこの日だった。
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