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理想の告白シチュエーションがあった。
美しい夜景の見えるお洒落なレストランで、
優雅なディナーに舌鼓を打ちながら、
彼の方から愛の言葉を囁いてくれる。
「好き……」
その言葉が零れたのは、彼の口からではなく、私自身の口からだった。
私たちの周りを包むのは、きらびやかな夜景ではなく、ショッキングピンクやバイオレットの不躾に主張するド派手な看板のネオン。口にはさっきまで舐めていた安っぽいパイン飴の味が残っている。
現実は、何もかも理想どおりにはいかなかった。
「……すき、何?」
信兄が優しく微笑んで、私の顔を覗き込む。その表情は純粋に言葉の続きを待っていてくれる顔だった。でも、あなたの望む通りにはならないよ。だって、続きなんてないんだから。
好きって、言ったんだから。
距離の近さと自分が言ったことが恥ずかしくなって、俯きを深くする。
その時
ぐぅぅぅ~~~。
ちょうどタイミングよく、お腹の虫が鳴った。
「ああ! 空きっ腹か!」
勝手に一人納得して、彼はのんきに笑う。
「今まで塾だったから大変だったよな。早く帰ろう」
そう言うと、信兄は私の肩に優しく触れようとする。やましいことなど何にも考えてなさそうなほど、お兄さん然とした態度。
本当に、何もわかってない。
苛立ちが込み上げて、思いっきり彼の顔にビンタを食らわす。頬に手を当てて呆然とする彼を置いて、私は早足に歩き出した。けれど、背中にすぐさま声がかかる。
「おい! 一人で行ったら危ないぞ! 送ってくから!」
あんなことされたのに普通、追ってこないでしょ。それでも私を追ってくる理由は、私を妹だと思っているから。
追いついてきて心配そうに私を見る彼を横目に見て、心の中でつぶやく。
やっぱり、何にもわかってない!
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