ダブルフェイス ―探偵・一吹零介の事件簿―

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 彼は眠っている。いや、眠らされていると言った方がいいだろう。  零介はゆっくりと目を開けた。通勤途中の車の音、強風に軋む窓の音。すべてが鮮明に自分の耳に届いている。いつものように霞がかった響きではない。  零介は起き上がって壁に掛けてあるカレンダーに目をやった。今日の欄には控えめに書かれた『休』という文字がある。今日は彼の数少ない休日だった。零介はいつものように枕元にあったリモコンを手に取り、テレビをつけた。画面には見覚えのある建物が映っている。レポーターの男性が早口で話し始めた。 「はい。私は昨夜未明、教師が自殺したとされる南川高校の前にいます。現場は立ち入り禁止のテープが張られており、物々しい雰囲気に包まれています」  画面が切り替わり、男の顔写真が全面に映し出される。男は派手な赤紫色の眼鏡を掛けていたが、端正な顔立ちのおかげで変には映らなかった。長い髪は緩やかに流されており、気障な雰囲気を漂わせている。顔写真の下には、『被害者 高坂明(28)』と表記されている。零介は画面を睨みつけるように凝視していた。 「……遺体発見時の状況から高坂さんは屋上から転落したと見られます。原因は未だわからず、警察は事故と事件、両方の線から捜査を行う方針です」  零介は一度静かに目を閉じると、カッと目を見開いた。その目は覚悟にも似た光を放っていた。零介は立ち上がると、クローゼットからあるものを取り出した。そして、呟く。 「やっとこの日が来ましたか」
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