鬼の息抜き

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          去っていく男の背が、猫背ながら妙に威のある体運びだった。 「あいつ、カタギじゃねえな」 おもわず呟いた俺に、総司が噴き出した。 噴き出したきり、声無く笑いながら総司は木刀を庭の石に立てかけ手拭いを取った。 「総司、」 ・・・まぁ。俺たちも似たようなもんか。 「もう稽古はいいのか?」 「十分やった」 「そうか」 体拭く総司を見ながら、俺は一足先に部屋に戻った。 俺も総司も、昔は随分いろいろとやったもんよ。 総司。こいつは俺と、その道の歴なら張る。 ま、総司のような江戸生まれの江戸育ちが、そっちのほうで早くねえはずがないが。 もっとも大抵の手ほどきしたのは俺よ。 白状すれば、喧嘩と賭博をまだ十二だったこいつに叩き込んだのは、こいつの尋常じゃない勘の鋭さを利用しちまうつもりだったんだがな。 剣に天才ってことはな。なにも剣筋だけのはなしじゃねえ。 そこをいち早く見込んだ俺も、だてに策士と陰口叩かれてるわけじゃねえってわけよ。 「総司・・」 俺の部屋に戻ってきたこいつを、俺はもう一度、艶含んだ声で呼んだ。 昨夜、散々抱き合って二度も気失うほど感じちまって、朝になればまたこれだ。俺の体はどうかしちまってる。 こいつと初めて契ったのは、なかば成り行きみてえなもんだった。まだ江戸に居て総司と毎日みてえに、賭博に喧嘩に女にと明け暮れていた頃よ。 それからかれこれ七年程か。 長いつきあいだな。昔からの仲間は皆、知ってる。俺らも隠さねえ。こうして堂々と毎夜、総司は俺の部屋で寝て、朝には俺の部屋出た庭で朝稽古してる。そして総司がひとしきり汗を流した頃には俺も起き出していて、そしてまた抱き合う。 「歳さん、あんたがホントの”絶倫”だよ」 これが、こいつの口癖のからかい言葉よ。 違いねえ。だがこいつに恋情いだくようになる前は、他の男とも寝てみたりしてたから言えることがある。俺の体は、こいつだから”こんな”なんだってな。 「おめえじゃなきゃ、こうもなれねえよ」 これが俺の返しの口癖ってわけさ。 総司は決まって哂う。 「こっちはあんたの体、知り尽くしてんだよ。当然だ」 なんだか思い出しちまったな。 江戸で総司と散々やってた頃が懐かしい。今の俺は転んでも新選組副長よ。もう馬鹿やる身分じゃねえ。総司も同じだ。今じゃ互いに道外したことはしねえ、それだけは確かだ。 だが、いいじゃねえか。 喧嘩のひとつくれえなら、久々にやりてえもんだな。 「ぶっそうな人だな」 ひとしきり抱き合った後、一つ布団でまどろみながら黙ってそんなこと考えてたら、隣で不意に総司が笑った。 「昔の歳さんの顔してるよ。なに考えてた」 「・・・」 こいつは俺の顔で分かっちまうのかよ。 「当たりだ。昔思い出して感慨浸ってた」 答えた俺に、総司はふっと微笑い貼り付けたまま、俺の肌蹴た着物の下に手をいれてきた。俺の乳首摘みながら、それ以上はコト運ばせる様子もなく。 「血が疼く・・わけ」 からかうように、こいつは囁いて。 「あんたは根っから喧嘩師だからなぁ」 「こういう衝動駆られるときねえのか、おまえは」 「そんなヒマじゃあない」 表情の欠いた声で総司は答えてきた。 「・・・ああ、」 そうだったな。こいつは毎日人斬ってる日々だ。俺がその点じゃ”ヒマ”だと、けなされても文句言えねえ。 同じ闘いだろうが、それは喧嘩とは根底から違う世界だ。 互いの志、信念抱いて生きるか死ぬかの闘いに明け暮れてきたこいつが、喧嘩なんぞに駆られるはずもなかったな・・・ 「新選組の副長サン。喧嘩程度、やれる場所ならいくらでも思いつく。あとは俺があんたの肩書き外してやる」 「・・ほんとか」 つい乗り気に総司を見返した俺から、総司の手が離れ。 「今夜、どっか飲みにいきましょうぜ」 「飲み屋か・・?」 「そう。街外れでゴロツキの常店ひとつ、見つけりゃいい」 「ああ・・、」 なるほど。 「そいつは楽しみだ」 俺の身体が、久々の夜を想って今から疼きだした。同時に、 総司に悪戯されていた乳首がじんと痺れていて。そこから燻る感覚が俺の芯を灯し。 「総司・・もいちど・・」 こいつ、俺がこうなること知っててわざと俺の肌を弄っていたのかもしれねえと、胸中舌打ちしながら総司の首に腕をまわした。総司が心得たように俺に覆いかぶさる。 「ほんと可愛いよ、あんた」 そう喉で嗤うと、俺の首すじに唇を這わせ始めた。
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