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いい加減ガツンと言わないと気が済まないと少し口を開きかけた時、目の前にいた大和くんが目を大きく見開き小さく「ぁ」と息を飲んだのが分かった。
それと同時に聞こえた声に私も思わず「え」と声が出てしまった。
「こんな往来で何をやってんだい」
のんびりとしたその静かな口調は大好きなあの人の──私の夫のものだった。
「……弥ノ助、さん」
大和くんがその名前を口にすると弥ノ助さんはにっこりと笑った。笑っている──はずだった。
「大和、どうして里咲と一緒にいる」
(っ!)
弥ノ助さんが私を呼び捨てにした。それはとても稀なことだった。
(なんで突然?! いや、嬉しいんだけれども)
私的にはちゃん付けよりも呼び捨てで呼ばれる方が嬉しかった。だってちゃん付けってなんとなく子ども扱いされているような気がするから。
勿論弥ノ助さんから呼ばれるならどんな風でも構わないのだけれど。──なんて私が考えている間も弥ノ助さんと大和くんは一見和やかそうに会話していた。
「どうしてって……たまたまデパートで里咲ちゃんと会って……」
「……」
「なんか服買うのに悩んでいるみたいだったからアドバイスっていうか……似合うの探すの手伝っていたっていうか……」
「……」
「そしたら里咲ちゃんがお礼にってお茶、奢ってくれて……」
「……」
「帰る方向……一緒、だから……」
何故か大和くんの声がだんだん小さくなっていった。
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