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父はその人に赤い物を渡した。
「伯父さんにはちゃんちゃんこよりもベストの方が似合うと思ってこれにしましたよ」
「おいおい、このじじぃに随分とハイカラなものをくれるじゃねぇの」
「きっと似合いますよ」
それはいわゆる還暦祝いの赤いちゃんちゃんこ代わりの赤いベストだった。
それを贈られている目の前の人は今日の誕生日で60歳になったという。
(60…?!)
俺の知る限りの60歳とは到底見えないその人から目が離せないでいる。
今まで親戚のお兄さん的な気持ちで接して来たその人が実は60歳になる高齢者予備軍だったと知った時の衝撃は半端なかった。
もしかしたら俺だけがそう見えているのか? とも思ったが両親の会話を訊いているとどうやらそうでもないらしい。
「しかし全然老けませんね。もうおれの方が伯父さんより歳上に見られちまう」
「本当に。中身も見かけ通り若いままならいいんですけど」
「中身も若いさ。俺はこの歳になっても健康診断、一回も引っかかったことがねぇからな」
「……」
(やっぱりお父さんもお母さんも俺と同じように見えている)
そう確信すると益々その人──常盤弥ノ助という人が俺には酷く恐ろしい存在に思えたのだった。
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