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女友だちと別れフラフラとやって来たのは勝手知ったる店。
ガラガラッと音を立てる今時珍しいこのレトロな手動の引き戸をいつか俺が店を継いだ際には自動ドアにしてやろうと目論んでいる。
「いらっしゃ──……なんだ、大和か」
「なんだじゃない。お客として来たんだからちゃんと挨拶してよ」
「あら、自腹で買うの?」
「買う」
「いらっしゃいませぇ~」
「……」
出迎えた店員兼母はおちゃらけたように言った。
この老舗和菓子屋【ときわや】は今では暖簾分けした支店が有名百貨店や大手デパートにも出店しているほどにネームバリューのある店になっていた。
その本家である此処【ときわや】は現在弥ノ助さんの甥に当たる常盤忠司──すなわち俺の父が継いでいた。
いずれこの店は俺が継ぐという話になってはいるが、それはあくまでも『今は』と注釈がつく。
今現在弥ノ助さんの甥である父がこの店を継いでいるのだって元は弥ノ助さんに跡取りとなる子どもがいなかったからであって、この先弥ノ助さんに子どもが出来たら──……
(……子ども)
それはすなわち今現在弥ノ助さんの妻になっている彼女──里咲ちゃんが弥ノ助さんの子どもを生んだら……という話。
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