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すると店の方から『大和ぉー』と呼ぶ声が聞こえた。
声の主は母。その声に弾かれて我に返った俺はゆっくりと立ち上がり「何」と少し大きな声で訊き返した。
『ちょっと厨房の方、お父さんの手伝いしてやってー』
「……はぁ」
たまに店に寄ると俺はいいように使われる。いつものことだからすっかり慣れてしまっているが。
それに店の手伝いをするのは嫌いではない。
小さい頃から店や厨房周りをうろちょろして父のやることなすことを間近で見て来て、そして自分自身で将来は父のような和菓子職人にと決めたことだから。
部屋に上がる手前で足を止めもう一度祠の方を見た。勿論、其処には何の変化もないただのボロい祠だあるだけ。
だけどこの祠と彼女が数奇な運命で繋がっているのだと改めると何故か尊いものに感じられて少しだけ目には見えないものに対する畏怖を覚えたのだった。
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